第120話 魔法使いのアイス屋さん

「フェリス様が街のお店に入ったりされるのは意外でした」


悩みに悩んだ末、注文完了!!

ラズベリー、ストロベリー、桃、キャラメル、紅茶でお願いした!

(欲望に任せすぎて、味の統一感がぜんぜん保ててない……)


「……昔ね」

「はい」

「山側の街の景気がよくないようだけど、何がいけないんだろうと悩んでたら、

そりゃろくに自分で歩いたこともないのに、紙の報告書ばかり読んでてもわからんだろうよ、 とレー……僕の年長の親族に笑われて。それからは、行ける範囲で自分で確認してみるようにしてる。……流行ってる店、うまくいってない店、景気のいい通り、犯罪の起こりやすい辺り……」


親族。そんなにフェリス様に気安いかんじでお言葉をかけられる御親族は、どんな方なのかしら? フェリス様の叔父様とかかしら? きっと素敵な方なんだろうなー。会ってみたいなー。


「フェリス様のような方が自分で行かれるのは珍しいのでは……」

「うん。でも、僕は兄上と違って、自由な立場だから……、いろいろと兄上がお立場的にできないようなことを僕が手伝えたらいいかな、と思って」


フェリス様とお兄様の国王陛下は仲がいいのかなーとレティシアはお話に耳を傾けている。お兄様のお話は、王太后様の御話するときほど、フェリス様に忌避感がないかんじ。さきほどの親し気な叔父様よりは、ちょっと距離、遠い感じだけど……。


フェリス様と仲のいい人、微妙な間柄の人、いろいろ覚えたいなあ……。


「お待たせいたしました。少しは、姫様の探してたものに近づけてるといいんですけど……」

「きゃー! 可愛い!」


ガラスの平皿の上には、ラベンダーの紫の小花と生の木苺や桃やベリーがふんだんに飾られ、何とも可愛らしく各種類のアイスがデコレーションされている。


「こちらはお任せの方で……、時計回りに、ローズ、ラズベリー、マンゴー、キウイ、ラブポーションのアイスです」


レティシアはセンスに自信がなかったので、フェリス様のはお任せにしたのだ。こちらも赤い薔薇の花びらが散らされ、ラズベリー、マンゴー、キウイとフルーツもふんだんに飾られている。


そしてどちらの皿にも、小さく控えめに、HAPPY WEDDINGと、御祝いの言葉がチョコレートソースで書かれている。


「ううう。可愛い……お写真撮りたい……」

「ん……? しゃしん……?」

「何でもありません!  嬉しいときの擬音です!」

「……そうなの?」


あまりの可愛らしさにほわーんとしてしまい、余計な事を言ってしまった。


「ラブポーション(愛の薬)とは?」


「あ、それはどちらにもいれました。御二人の愛が高まりますように、と。……あら、フェリス様、そんな顔しないでください、おかしなものはいれてませんから。害のないハーブです。とても健全なやつ。姫様には、まだ大人な恋薬は早すぎますから」


「レティシア。この人は王立魔法学校のもと優等生なんだけど……昔から、おかしなものばかり作る天才で……」


「魔法使いでいらっしゃるんですか?」


「はい。姫様。いまは魔法使いのアイス屋でございます。簡単な氷魔法を使って、楽しく商いをさせて頂いてます」


確かに、冷蔵庫のない世界で、アイス屋さんの厨房とは、どうなってるんだろう? 

厨房に、氷室とかあるのかな? と思ってた。


「王立魔法学校の優等生でいらしたなら、きっと、あちこちの就職を断られて……」


ひっぱりだこだと思うの、きっと。魔法使いさんて、就職難と縁なさそう。


(なのでレティシアもお勉強したい)


「雇われ魔術師をやるには、少しならず協調性が足りなくて……さささ、私の話などより、溶けないうちに、私の作品をこそ、美味しく召し上がって下さい。ラベンダーアイスはラベンダーリキュールをかけてみましたが、お口にあうとよいのですが……。このたびの御二人のご結婚、まことに、おめでとうございます。ご結婚前の御二人に御菓子をお出しできた数少ない職人の一人になれて、本日は望外の喜びです」


エプロン姿で、綺麗な礼をして、御祝いを述べてくれた。


ホントだ、溶けないうちに、と口にいれたアイスは、紫色のラベンダーリキュールがかかっていて、ほんのりと甘く癒しの香がした。




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