第118話 フェリス派とレティシア派について

「それにしても、僕の婚約者を子供扱いするな、と僕は決闘を申し込むべきだろうか?」


「え? いえ! ホントの事ですし!」


ぷるぷるぷるぷる、レティシアは首を振る。


フェリス様、物騒……。決闘とかダメ、絶対。フェリス様があぶない。

あんな筋肉質そうなおじさんとフェリス様が殴り合うとか、想像するのすら無理。


「人間、本当の事なら、何を言っても許されるという訳ではない」


「それはそうですが……あの人たちはただフェリス様を気の毒がってただけで、

悪気がある訳ではないので……」


「………? 僕はレティシアといて幸福なので、見知らぬ他人に気の毒がってもらう必要はない」


フェリスは、さきほどかけた魔法でいま茶髪に茶色い瞳だが、海辺の明るい太陽の光に、まるで本質の金髪碧眼が透けて見えるようだ。


そう言って貰えてほっとして、レティシアはぎゅっと、フェリスと繋いでいる手を握った。


それにしてもお外にお出かけするときって、ずっと、フェリス様とは手を繋いでるものなのかな?


レティシアが小さいから、フェリス様、心配してるのかな? 安心するけど……。


「幸福、ですか?」


「うん。レティシアが来てからの方が、毎日楽しい」


「……それは、毎日笑い転げてるからでは……」


うん? とレティシアは小首を傾げる。


レティシア本人だとて、並んでたら似てない兄弟に見えるかなあ、どう考えても夫婦には見えないと思うの、と思うから、ディアナ国民もサリア国民も、そりゃあ何か言いたくなっても仕方ない。


でも、いま、一週間前、サリアにいたときより、レティシアが幸せなのも本当だ。


「それに我が家の者が、毎日、感動してる。フェリス様、大人になって……人間らしくなって……て。これに関しては、よほど普段の僕が、人として、ひどいみたいじゃないか、と思うが」


「少なくとも、御夕飯のかわりにチョコレートはひどいと思います。マカロンもダメ。子供よりダメです」


「……誰が教えたんだ……」


フェリスが晴れ渡った青い空を仰ぐ。


「たくさん私に優しいフェリス派の密偵さんたちがいらっしゃるんです」


レティシアは左手の人差し指を、桜色の唇にあてて微笑んだ。


「それはフェリス派じゃなくてレティシア派だろう」


「そんなことありません。私達みんなフェリス派なのです」


リタが、レティシアの髪を梳いてくれながら話してた。


フェリス様のところで働く者は、メイドも厨房の者でも下働きも、望めば読み書きを学べるのです。どんな者も字は読めた方がよい、そのほうが生きることが楽しい、てフェリス様が仰って。そんな御仕事先は、他にはありません。でも、フェリス様は、皆には優しいのに、自分自身の事には、本当に無頓着なのです。だから、邸の者はみな、食べることも忘れて、無理ばかりなさるフェリス様が心配です。勝手にフェリス様を悪く言われるのも悲しいです……よい方なのに。


リタの話を聞いていて、レティシアは思った。


フェリス様の庭園の薔薇が、他の宮より綺麗に咲くのは、精霊さんの仕業ではなく、庭師の働き心地がいいからかもしれない。


なので、あまり何もできないけど、これから彼の小さな妃になる、

レティシアの至上のお仕事は、フェリス様に栄養のある食事を摂っていただくこと。

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