第117話 海辺の街を歩く、婚約者の二人について

「フェリス様。私、ラベンダーのアイスクリームというものを買ってみたいです」


「ラベンダーのアイスクリーム?」


「はい。サリアで読んでた御本で、街で少女がラベンダーのアイスクリームを買うお話があって、それがとっても羨ましく思えて」


「色は綺麗だろうけど、味は個性的そうだな」


ふわふわとしたレティシアのリクエストに、めちゃくちゃ現実的なことをフェリスが言っている。


「ラベンダーフレーバーがあるかどうかは保証できないけど、アイス屋はあると思うよ。たしか、あの路地の奥にあったと思うんだが……」

「フェリス様」

「うん。少し離れてついてきて。何処にいても、僕よりもレティシアを気にしてあげて」


フェリスが護衛の者に指示を出し、二人で歩くようにしてくれた。


フェリス様と二人で歩けるの、嬉しいな~。

護衛をぞろぞろ連れてたら、いつもと変わらないし……。


(でも、街歩きで、フェリス様に何かあったら、あぶないかな。頑張って、お守りするぞ。ディアナの人は、レティシアを誰も知らないだろうから、レティシアには心配していただくほど、危険はないと思うの……)


「ねぇねぇ聞いた? 花屋のランビ、フェリス王弟殿下の結婚式にお花納品するんだって」


「そりゃー景気のいい話だなー。国王陛下の挙式以来の王家の婚姻! しかも竜王陛下そっくりのオトコマエのフェリス殿下の婚姻! 街中が花で埋まるよなー。何処の花屋も儲かるだろうなー」


 露店の八百屋には、紫に輝く茄子や、真っ赤なトマト、黄いろいレモン、新鮮な食材が木箱に入れられて所せましと並んでいて、人々はそれを選びながら、自由にお喋りしている。


 私たちの結婚式のお話! と思わず、ぎゅっとフェリスと繋いでいる手を握って、

 レティシアは聞き耳赤頭巾になってしまう。


 本当に、話に聞いてたように、王族の結婚式は経済を潤すんだな……。

 ディアナほどでなくても、サリアのお花屋さんやお菓子屋さんも潤ってるといいな。


 お嫁入り前、レティシア姫婚姻の号外がでたので、お祝いの御菓子がたくさん

 できてるって話してたな。


 そのとき、あいついで両親を失ったばかりで、レティシアの気持ちは生ける屍だったけど、誰かの幸せの役に立てるといいな、て思ってた。


「でも、サリアからの花嫁さんはまだ子供なんだろ? 気の毒だなあ、男盛りだろうに、フェリス様」


 すみません、花嫁、ちびで。


「もー、おまえ、下賤な話すんなよ! フェリス様は俺らとは違うんだから! 

 あの方はなあ、もっとこう高潔な御心で、我が国のためにだな……!」


「おまえな……こんど、いい娘、紹介してやるから。フェリス様の絵姿飾るのはやめとけよ……」


まあ……フェリス様の絵姿を……、私、この方とはお話があうのではないかしら……?


「まあまあ、フェリス様もお若いのにすげぇ切れ者でいらっしゃるけど、まだまだ小僧っ子の歳なんだから、 小さい姫さんが綺麗な娘になる頃に、ちょうどフェリス様も一人前になりなさるよ」


小僧っこ!! フェリス様、小僧っこ!!

でも確かに、フェリス様ってもう大人みたいな雰囲気だけど、まだ十代だもんね。


十七歳といえば、前世の日本では、受験、サッカー、高校野球、部活、ディズニーランド、オタ活、デート、バイト、友達との通学、お喋り、他愛ない喧嘩……。進学するか就職するかだけど、向こうだと、結婚は十八歳以上からだから……。


「レティシア。ふわふわしてると、転んでしまうよ」


「あ……すみません」


は! お話に聞き耳頭巾に夢中になってて、足元が疎かになってました。


「もし、足が疲れたなら、僕が抱いて運んであげてもいいよ」


「……!? 疲れておりません! めちゃくちゃ元気です!」


これ、フェリス様、からかってるつもりじゃなくて、本気ぽいところが、天然さんだと思うの……。


「本当? レティシア、あまり外を歩きなれてないだろうから……」


「外は不慣れですが、私、庭を駆け巡って鍛えてあります!」


王宮の庭園で母様とかくれ鬼をよくした。

かくれ鬼は終わったのに、母様がでてこない……。


「さっきの方々、私たちの結婚式の噂されてましたね」


「ああ。久しぶりの、ディアナの慶事となるからね。僕達の結婚式であり、

 民にとっては、よき気晴らしのお祭りになるといいと思うが……」


そうなの。いつもこんな感じのとてもよく出来た方なので、

フェリス様が十七歳の少年なこと、きっとみんな忘れてるんだよね……。


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