第116話 窓の外の世界に見惚れる姫君

「フェリス様、フェリス様、船がたくさん見えます!


王宮を出て程なくすると、見えてくる景色が変わり、レティシアは馬車の窓にかぶりついている。


「港に近づいてるからね」

「ディアナは王宮のお近くに海があるのですか!」

「そう。サリアは海のない国だと聞いたから、レティシアには珍しいかもと……」

「私、海、初めて見ます!!」


この世界では!! だけど!! 海ー!! 懐かしい!!


「王宮へ来るときに、海側通らなかったんだね」

「来るときは、輿の中で、緊張で震えてて、景色なんてぜんぜん……」

「これから、ディアナの変人王弟に頭から食べられるんじゃないかと思って?」

「……ううう。ごめんなさい、そのくらい怯えてました……」


御伽噺の怪物のような人を想像をしてたら、御伽噺の王子様がやってきた。


「なんて透き通った碧い海……、フェリス様の瞳みたい」


海洋汚染のない世界の美しい海!! 本物の帆船が出入りする港!!

毎日、海風に洗われてると思えないような、瀟洒な白い街並み。

美しく手入れさせれた、王宮のお膝元の街。


「賑やかそうです! 栄えてます!」


「レティシア、窓に張り付きすぎ……」


あんまりレティシアがはしゃぐので、フェリスがついに笑いだす。


「だって嬉しくて! ディアナの方々、みんな楽しそうですね……!」


海鳥の鳴く声、人々の笑う声、何かを売っている商人が、客に説明する声。

活気のある街だ。市民の着ている服もなかなかお洒落で、表情も明るい。

見える限りには、生活に困っている人はいなさそうだ。


「あ。御歌……」


広場に、吟遊詩人がいて、恋歌を唄っている。それにあわせて、美しい舞姫が、舞を舞っている。足をとめて聞いてる恋人達、子供、老人。優しい竜神に守られて、平和で、幸せな国……。


「降りてみる? 用心のため、マントは着ててね」


「はい。フェリス様」


一応、レティシアは、王宮の中にいるときよりは、控えめなドレスを選んでもらっていて、その上から、御伽噺の赤ずきんのように頭も髪も隠す赤いケープマントを被る。とても可愛らしい。


フェリスも黒いケープマントを着るようだ。それはぜひその方がいいと思う。眼鏡をかけても、華やかな顔立ちは隠しようもない。フェリス様の竜王陛下そっくりの美貌は、被り物の下に隠すべき。


「レティシア、魔法で髪と瞳の色を変えてもいい?」

「は、はい」

「何色がいい?」

「茶色とか?」


馬車の窓から眺めた道行く人に茶色い髪の人が多かったので、そう答えた。


「じゃあ、茶色にしよう」


レティシア自身の姿は見えないが、フェリスが何か呪文を唱えると、フェリスの金髪と青い瞳が、茶色い髪と茶色い瞳に変わった。それだけで、ずいぶん、印象が変わる。


「嫌な色じゃない?」


折り畳みの小さな手鏡をフェリスが見せてくれる。

鏡の中には、フェリスと同じように、茶色い髪と瞳になったレティシアがいた。

わ…! ちょっと変装させて貰った!


「はい。大丈夫です。フェリス様とおそろいになりました」


「そうだね」


これなら、やたら面倒見のいい兄が美形の、貴族の兄妹くらいに見えるだろうか……?


「じゃあ、行こう? レティシア、手を」


馬車から降りるのに、フェリスが自然に手を貸してくれる。


レティシアは、フェリスの手に手を重ねながら、昨日、王太后様の御茶会に出かけるときも、フェリス様が一緒だから怖くなかったな、と思いだしてた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る