第115話 六頭立ての馬車の中での二人の御喋りについて
「フェリス様は、よく、街には行かれるのですか?」
レティシアとフェリスは、六頭立ての馬車に乗って街へ移動中である。
そもそもこんな普通の人は乗れそうもない馬車で出かけたら、ちっともお忍びにはならないのでは……。
「そうだね。王宮にいると息が詰まりそうなときに」
そうなんだー。意外だー。
深窓の姫君じゃないけど、フェリス様こそ、王宮の中にこそ咲く花みたいな外見の方なので。
昨日も、王太后様の御茶会に出かける為に、この六頭立ての馬車で王宮内を移動したのだけど、やはり結婚相手のお義母様に初めてお会いしにいくのと、二人でちょっと街に出かけるのでは、気楽さが全然違う。
「ごめんね、レティシア。レティシアのディアナでの母になってくれるような
義母上だったらよかったんだけど……いや、王太后も、僕以外にはよき母なんだけど……、」
二人を乗せた馬車が、ゆるやかに昨日と違う道を曲がっていくときに、
フェリスも思い出したのか、少しその話に触れる。
「サリアのお母様はきっと、フェリス様が優しい人でよかったわね、て言うと思います」
まず面識もないディアナの王弟殿下がどんな恐ろしい人かと思っていたのだから(失礼すぎる……)、結婚相手の義母上も大事だけど、何よりも、フェリス本人と気が合う事が一番大事だ。
「レティシアのお母様はどんな人? レティシアに似て優しい?」
「私よりずっと優しいです。最初にお父様が疫病にかかられて、お母様は皆がとめたのにお父様の看病されてたら伝染してしまって……、だから、レティシアを近づけてはダメって。最後も見送らせてもらえませんでした。私が幼かったから、後十年、五年でもいい、レティシアがもう少しだけ大きくなるまで生きたいと嘆いてました」
「……うちと一緒だ」
「………?」
「僕の母も、せめて後十年、フェリスが成人するまで生きたい、と僕に詫びてた。
……いまの僕ならもう少し、僕が母を長生きさせられたろうに」
もしかして、フェリス様が、親を亡くしたばかりの五歳の花嫁との縁談断りきれなかったのは、それも理由のひとつなのかなー、と思ったりした。
「フェリス様のお母様がフェリス様見たら、きっと喜ばれますね。凄く立派になられて」
「どうだろう? あなた随分ひねくれたわね、て驚くかも」
「そんなことないですよ。あ……竜王陛下そっくりになってて驚くかも」
「それは確かに驚くな、きっと」
「子供の頃から似てらしたんですか?」
「子供の頃は、そこまででは……。何より、子供の頃のレーヴェを誰も知らないから、もしかしたら、子供の頃から似てたのかな……」
「私は父と母なら母に似ているのですけど、鏡に映った姿に母に似てる部分を見つけると、 母が私の中にいるみたいで嬉しいです」
「僕はレーヴェに似てると、悪いことができない気がする」
「神様に似てるから? フェリス様、いったい、どんな悪いことしたいんですか?」
フェリス様と悪行。
それもあんまり似合わない。なんか座りが悪いもん。
「うーん。わからないけど……、たぶんレーヴェならここで諦めないよな…とか、
レーヴェはここで見捨てないかも…とか思って、いろいろ放り投げられないときが
ある」
「竜王陛下が、フェリス様の生き方のお手本なんですね」
だいぶ偉大なお手本である。
「お手本……? あんなお気楽竜が僕のお手本なんだろうか……?」
オレよりフェリスのがだいぶ面倒見いいけどな、フェリスは真面目ちゃんだけど、
オレ、基本ざっくりだから、と御本家のレーヴェが聞いてたら、言いそうではある。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます