第113話 琥珀の瞳の姫君は、お米がお好き

「フェリス様。レティシア様は、夜に御一人で、フェリス様の部屋にいらしたのですか?」

「うん。僕が夕食あまり食べてなかったと気にして、夜食持ってきてくれたんだ」


 何もしなくても朝から輝いているとレティシアを驚かせたフェリスだが、流石に鏡の前に座って、レイに身繕いしてもらっている。


 自分でやるよ、と言うのだが、フェリス様は何事に関しても細やかな方なのに、こと自分のことは恐ろしく省略しようとなさるからダメです、と言われている。


「お夜食?」

「レティシアが、ラムゼイに作らせたんだって」

「何と。いつのまにそこに連携が」


「糧食の確保て重要だから、レティシア、一兵卒として軍隊入ったら、すぐ小隊長に出世しそうだよね」

「フェリス様……どうして話がそちらに……。姫君の資質を評するには、もう少しそれらしき優雅な表現がある筈ですよ……」


 レイが、我が主人ながらなんともかんとも、という顔をしている。


「ああごめん。ついそっちを思っちゃった」

「とはいえ、確かに、レティシア様は名将です。あんなに可愛らしい方が、まさかのあの王太后様を迎撃されましたから」

「ね。当主の僕よりずっと勇ましいよ、うちのちいさなお姫様は」


 しかも、同胞に目に見えない損傷がないか、戦場離脱後も気にしてくれる。

 あんなに小さいのに、だいぶ、フェリスより優秀だ。見習わなくては。


「でも、無防備だから、ちゃんと気をつけてあげないと……」


 昨夜、フェリスはきちんとレティシアを部屋に送り届けるつもりだったのに、あんまり幸せで心地よくて、そのまま寝てしまった……。このあいだレティシアに魔力を与えたときのように、何かレティシアから力が流れて来たのか、やけに身体が軽い。いつもの義母上と逢ったあとの疲労感がまるでない。


「左様ですね。純粋なレティシア様のよきところが損なわれない様に、うまく宮廷慣れしていけるとよいかと……」


かろやかなぱたぱたする足音と、明るい笑い声と、レティシアの使ってる石鹸なのか香水なのか、 やわらかな花の香りが、いまだこの部屋に残るような。


「よきお披露目となりましたよ。王弟妃は、何もかも母后の言いなりにはならぬという。 フェリス様の側妃になりたかった姫君には残念でしょうが……」

「本気でそんなつもりの姫なんていないよ、ただの気分の悪い余興だよ。……それより、レイ、レティシアがお米好きらしいから、お米たくさん仕入れてあげるように手配しておいて」


「お米ですか? かしこまりました。レティシア様、ずいぶん、大人びた好みでいらっしゃいますね」

「うん。何か簡単なお米の料理、作ってくれるって言ってたよ」

「ほお。お米の料理ですか……どんなものでしょうね?」

「どんなものか予想できなくて、僕も楽しみだ」


フェリスは変人の風評はかまわないが、レティシアの名誉の為に、あまり夜に部屋に来させないほうがいいのではと思うのだが、レティシアとふたりの時間がフェリス自身もとても楽しかったので、我が家の気紛れな妖精さんの来訪をとても拒めそうにない。


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