第112話 未来は、君の優しい手の中にある

「レティシア様!」

「レティシア様、御無事で、ようございました!」


フェリスに送られて、レティシアが自室に戻ると、慌てふためいた様子のリタとサキが駆け寄ってくる。


「ご、ごめんなさい、心配かけて」


皆に心配かけてるのに、フェリスの部屋で、気持ちよく眠ってしまっていたレティシアは反省する。


いつももう少し早く目が覚めるのだが、昨日はフェリスと二人で夜更けまで遊んでいたので、寝坊してしまった……。


「いえいえ。フェリス様のところでお休みだったのなら、よいのです」


「はい。フェリス様とご一緒ならいいのです。レティシア様が、御戻りの途中で、

迷子になったりしていらっしゃらないかと、私共、慌ててしまっただけで……」


大反省だけど、リタもサキも、昨日も今日も、まるでずっと一緒にいた女官みたいに、レティシアのことを心配してくれて、嬉しいなあ。


「僕が、レティシアは僕の部屋にいるよ、て連絡しておけばよかったね」


フェリスが一言、詫びてくれる。


「とんでもありません、フェリス様。おつきの女官たるもの、慌てず騒がず、状況を把握できてなくて、失礼いたしました」


「御二人で、楽しい夜になったようで、何よりでございます」


二人が綺麗にフェリスに礼をする。


「うん。ありがとう。レティシアの意向を叶えてくれて。レティシア、着替えておいで」

「はい」


御顔洗って、少しは、綺麗にしなければ。

何故フェリス様は、起き抜けから、髪を梳かしたわけでもないのに、輝いてるのかしら。


「レティシア様、いかがでしたか?」

「フェリス様、お夜食喜ばれましたか?」


フェリスが立ち去って、レティシアの部屋に入り、レティシアとサキとリタだけになってから、いつもの鏡の前で、綺麗にして貰いながらの報告会。


「うん。フェリス様、お夜食、美味しかったって。……サキ、どうしたの?」

「いえ、坊ちゃまも大人になられたものだ……と感慨が」


 鏡の中、レティシアの金髪を梳かそうとブラシを持ってるリタの隣で、嬉しそうなサキは拝むように両手を組んでいる。


「ごめんね、二人とも。夜のあいだに帰るつもりだったんだけど、

フェリス様とチェスしてたら、いつのまか眠っちゃったみたいで……」


「いえいえ。フェリス様のお部屋においででしたら、私共のことは何もお気になさらず」

「初めてのお泊りですね、レティシア様! どうでしたか、フェリス様のお部屋?」


 リタが若い娘らしく、ちょっとはしゃいでいる。


「これ、リタ……」


 サキが諫める。


「フェリス様のお部屋は、フェリス様のお部屋てかんじだった」

「………?」

「………?」


「なんかね、凄く綺麗で、真面目で、優しくて、ちょっと寂しそう……かな」


あんなにお仕事の書類、お部屋に持ち込んでちゃダメだと思うの。

そんな年中睡眠不足のワーカーホリックは、うっかり、車に轢かれちゃうんだから(実体験)。


「でもきっと、昨夜は寂しくなかったでしょう、フェリス様も。……レティシア様も、髪もお肌も、輝いてますよ。また何か、フェリス様に治療魔法かけて頂いたのですか?」


「ううん? 昨日は何も。二人でたくさん寝たからじゃないかな?」


フェリス様の贈り物のくまちゃんも偉大だけど、フェリス様本人も偉大なのかも。

安眠の守り人として。


「フェリス様、お夜食喜ばれたって聞いたら、料理長も喜びますよ」

「うん! 凄く美味しかったって言ってたて伝えて! またお夜食持ってく約束したから」


お夜食運ぶの楽しかったけど、フェリス様の部屋、隣ならいいのになーとレティシアは思った。


ふと、「もしもレティシアが僕を嫌ったら、部屋が遠いほうがいいだろうと……」と答えたフェリスを思い出した。


フェリス様は全然信じないけど、フェリス様は愛され体質なのに!!

自信過剰なオレ様は苦手だけど、フェリス様はもう少しドヤってもいいと思うの……と勿体なく思う。


でも人間、近しい人にずっと否定され続けると、自信を削られまくるから。

これからは、お義母様より、レティシアがフェリス様の近くにいられるといいな。


たいへん微力ながら、レティシア、推して推して推しまくるので。

本来、フェリス様のものであるべき、正当な自信を取り戻して欲しい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る