第111話 昨日の戦果と、おはようのキス
笑い上戸のフェリス様が、チェスでもする?
この部屋、あまり、女の子の喜ぶものはないんだけど……、と誘ってくれたので、レティシアは頷いた。
フェリス様ってまるで日本人みたい。
自邸のお部屋の中にまで、お仕事の書類らしきものがたくさん……と思ってた。
ふたりで初めてチェスをして、
ほんのひとくちだけ、レティシアも、甘い桜のお酒を舐めさせてもらった。
くまちゃんの真価を、フェリス様にも理解させられないのが無念……偉大なのに……。
ディアナ、お米あるみたいだから、おにぎり作ろう……。
レティシアの手、ちっちゃいから、ちっちゃいおにぎりになるかな…?
梅干しってあるのかな?
うーん、梅干しはなくても、鮭はあるよね、きっと……。
なかったら、何かおいしそうなもの、つめる……。
いつも作って、厨房の戸棚に置いといたら、フェリス様、お腹減ったとき、食べるかな……?
たどたどしい手つきでチェスを指しながら、琥珀色の瞳の姫君は、おにぎりの具について悩んでた。
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「う……、ん……」
レティシアは、おひさまの気配を感じて、白い瞼を震わせる。
長い金髪がもつれてくる。眠い目を擦りながら、起き上がろうとする。
「んー…よく寝た……、ひゃうう!?」
レティシアのものではない、金色の髪。
レティシアの隣で、白い瞼を閉じてベッドに横たわる、精巧なつくりの人形のような美貌の主。
「フェリス様だー。よく寝てるー」
ということは、フェリス様を安眠させたい作戦は、成功みたい。
「レティシア、起きた?」
「フェリス様、私、昨夜……?」
手加減して貰ってるのに、チェスに勝てない、と思ってたあたりから記憶がない。
「昨夜ね、レティシアが、僕が眠るまでお部屋に帰らない、て言ってて。レティシアを寝かしつけてお部屋に運ぼうかなと思って寝たふりをしてたら、僕も眠ってしまったらしい」
「悪い夢は見ませんでしたか?」
「うん。レティシアとくまのぬいぐるみのおかげ、かな? 久しぶりによく眠った」
「やっぱり! くまちゃん、偉大なのです。いい仕事するのです」
「………、………」
「あ、フェリス様、笑っちゃダメ」
「……くるしい、笑いを堪えるのが」
シーツに肘をついて、フェリスが笑いの発作に耐えている。フェリスの乱れ髪も目に新しい。
「……フェリス様? 起きてらっしゃいますか? 女官方が、レティシア様がお部屋に戻っていらっしゃらないけど、フェリス様のところにいらっしゃるかと心配されて……」
ドア越しに、レイらしき声がする。
「きゃー! 心配かけてしまいました」
予定では、お夜食提供して、フェリスがやすらかに眠ったところを確認して、レティシアは自室に退却予定だったのだ。
「レティシアはここにいるから、皆に心配しなくていいって伝えて。……レティシア、部屋に送っていくよ。この部屋には、レティシアの着替えがないから」
「お、お手数を……」
何だか、朝帰りだ。
同じ邸内といっても、すぐ隣のお部屋ではないから…。
「ううん。お夜食と安眠をありがとう」
レティシアの白い額に、フェリスのキスが触れる。
ううう。
フェリス様、人嫌いとか言いながら、こういうキスの仕草はやたら慣れてるの何故……。
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