第105話 進軍中の姫君とくまのぬいぐるみ
「ねぇ、くまちゃん、みんな笑いすぎだよねー。くまちゃん凄く偉大なのに」
うんしょ、うんしょ、とバスケットとくまのぬいぐるみを抱えて、レティシアはフェリスの部屋を目指す。皆が心配したように、レティシアの身体が小さいので、ふたつも荷物を持つと、なかなか進まない。
そして、御邸が広すぎて、廊下が長すぎる。
フェリス様のお部屋、遠い!
今夜は、フェリス様の部屋に夜這いだ! と夕食後にとっても名案を思い立ってから、気づいたのだが、レティシアはフェリスの部屋の場所を知らなかった!(ひどい)。
王弟殿下の正妃なのに、王弟殿下の部屋の場所すら知らない。
それ、どうなの!?
善意でも悪意でも、思い立って逢いに行こうと思っても勝手に行けないじゃない!
だけど、まだ、フェリス様の宮に来て一週間も経ってないしね……、と気を取り直して、リタやサキや料理長に相談して、身体によさそうなお夜食の準備などを整えて貰った。皆はレティシアの計画に驚いたけど、とっても喜んでくれた。
「レティシア様は、立派なお妃様になられます。フェリス様のお食事のことを気にかけて下さる姫がいらして下さって、わたしたち厨房の者は本当に嬉しいです」
料理長ラムゼイが白い髭を揺らしながら、本当に嬉しそうにそう言った。
きっと、みんな、フェリス様のからだ心配してるけど、御主人だから、きつくは言えないんだよね……。
「竜王陛下ー、フェリス様のお部屋への夜這い成功を応援してくださいね!」
竜王陛下のタペストリーの前でお祈り。
ああ、なんだか、やっぱり、落ち着く、竜王陛下のとこ。
きっと、今日、ドレスの戦闘支度大変すぎて、竜王陛下にお祈りしてくの忘れたから、御茶会があんなことに……。
「竜王陛下、王太后様が、フェリス様に意地悪しないようにしてください。私にも意地悪しないようにして欲しいけど、何なら私は多少我慢できますけど、フェリス様のほうが辛そうです」
あの、空間を振動させるほどの、深い哀しみ、痛み、怒り。
それはやっぱり、血の絡みがある一族だからだろうなー。
レティシアは今日は、いきなりとんでもないこと言われてびっくりはしたけど、
哀しいというのとはまた違う。何を言ってるの!? レベル。
レティシアにとっては、王太后様は、これからお義母様になるものの、まだ初めて逢った人で、これまでの思い入れはそんなにないから。
レティシア的には、直近でいうと、それまでは優しかった叔父様たちが、お父様お母様が亡くなった途端に、レティシアへの態度が豹変したほうが衝撃だった。
それはこれまで、よく知ってる、親しい、と誤解してた人の裏切りだったので。
ああ、だめだめ。それは思い出しても、どうしようもない。いやなことは思い出さない。
レティシアは、これからは、ここディアナで、フェリス様と生きていくのだ!
「竜王陛下?」
ぷるぷるぷるぷる、嫌なことを思い出して、金色の髪を振ってたら、ふわん、と、何か柔らかい優しい風が、レティシアを取り巻いた気がした。
「竜王陛下ー。竜王陛下は御顔もフェリス様そっくりで素敵ですけど、アリシア妃一途なとこも大好きです!!」
願わくば竜王陛下のように、て王太后に言った時の、そこだけは優しかったフェリスの声を思い出した。
(ありがと。オレもちびちゃん大好きだよ。早くフェリスの部屋襲撃して、うちの子孫、喜ばしてやって)
いつもの幻聴が聞こえたような気がしたが、きっと、竜王陛下も応援してくれてるんだー、とレティシアは呑気に解釈して、くまのぬいぐるみとともに、フェリスの部屋へ、ぽてぽてと進軍を再開した。
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