第104話 レティシアとくまのぬいぐるみとお夜食

「おかしくない?」


「とても可愛いらしいですわ。襟元とお袖口のそのレースは、セレンディールの職人の手によるもので、本当に繊細なんですの」


お寝間着。このレティシアのお寝間着だけで、社畜の雪なら、一か月以上暮らせそう……。新婚の妻ではあるものの、レティシアの寝間着は可愛らしくて、寝心地のいいもの。


「レティシア様、御一人で平気ですか? お荷物もありますから、私共が途中までお持ちしましょうか?」


「ううん。軽いから大丈夫。私一人でいって、フェリス様、驚かせようと思って」


「それは驚かれますとも」

「きっとフェリス様、喜ばれますわ」


今夜のレティシアは!! 

フェリス様に夜這いをかける予定!!


夜這いといっても、夜伽目的ではなく(そんな機能は未装備です)、フェリス様がレティシアが食べるのニコニコ見守りつつ、ちっとも御夕飯食べてなかったから、フェリス様のお部屋に、お夜食を持っていこうと思うのだ。


料理長に、美味しそうなサーモンやチキンのサンドイッチなど作って頂き、可愛いバスケットに詰めてもらった。


一食くらいぬいても死なないとは知ってるけど、今日は御茶会で嫌な思いもされたから、夜、フェリス様を一人にしときたくないなーて……勝手に遊びに押しかけるつもりなのだ。


押しかけパジャマパーティ予定!!


ディアナの人はお米、食べるのかな?

お米、手に入ったら、レティシアもフェリス様に、おにぎりとか作ってあげたいな~。おにぎりなら、食べるのも簡単で気に入るんじゃないかな~。


こちらで生きて、二度目の家族だけど、フェリス様は、不思議と、何かしてあげたい気になる。


なんだろう……、凄く何でもできる人なのに、大丈夫、問題ないよ、とか言って、食べるの忘れて、何日も平気な顔でひとりで仕事してそうで……。


今日みたいに凄く傷ついてるときも、何でもないふりで澄ましちゃうとこが、心配。


怒りたいときに怒れなくて、泣きたいときに泣けないと、どんどんどんどん降り積もっていってしまう……。


「レティシア様、そちらのくまさんも持って行かれるんですの?」


「うん。この子凄く安眠にいいから、フェリス様に貸してあげようかなと思って」


レティシアの手には、フェリスから贈られたぬいぐるみ。


「……そ、それは……」


「す、すみません、レティシア様のお姿が可愛すぎて……」


リタとサキが笑いを堪えて震えている。


「もー、みんな、信じてない!  ホントによく眠れるんだよ、この子と一緒だと」


「も、もちろんです。それを祈って、レティシア様の為に、フェリス様がその子を御用意されたのですから」


「可愛らしかったですよ。姫の為に何を用意してあげればいい?て悩んでらしたフェリス様。フェリス様御自身が子供の頃一番嬉しかったのは、同じ年の子はちっとも喜ばないぶ厚い魔法書だったり歴史書だったりで、僕にはふつうのその年頃の子の喜ぶものがわからない、て困ってらして」


「フェリス様、最初に逢った時も、私の気持ちを聞いてくれてた」


相手の気持ちを考える、て人付き合いの基本だけど、フェリス様クラスの身分の人で、それができる男性はそんなに多くないと思う。


だって、何なら、誰の気持ちも考えなくても一生許されちゃう立場なので。

生まれながらの王子様で、しかも神様似って……。


「うん。行ってくる。フェリス様に怒られたら、みんな慰めて」


「そんな筈ありませんわ。怒ったりなさいません」


「でもとっても驚かれるとは思います」


「驚かすつもりだもん」


レティシアは右手にバスケット、左手にくまのぬいぐるみを持って立ち上がる。


いざ出陣!


そんな可愛いらしい攻撃力の高い戦闘機の来襲予定は知らず、フェリスは自室でレーヴェとのんびり語らっていた。

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