第101話 きっと一人より二人の方が強い

「まあ、レティシア様、ルーファス、王太子殿下にもお会いになったんですか?」


お疲れになったでしょう、まずは着替えましょう、と女官達と自室へ。

いつもはお着替えめんどうくさいな……と思うレティシアだけど、さすがに外交疲れしたので、この白いドレスは可愛いけど、のんびりなおうちドレスに着替えたい。


「うん。王太子殿下、女官たちから抜け出してきたんだ、て威張ってて、可愛かった」


あ、御無礼かな?


「レティシア様と同い年ですよね」

「まだまだやんちゃなお年頃ですよね」


五歳。

でもまあやっぱり、普通の日本の五歳の子よりは大人っぽいかも。


何といっても、王太子殿下なら、ちいさいときから参加する国家的な公式行事とかいっぱいありそうだしね……。


「私には威張ってらしたんだけど、フェリス様には従順な感じで、それも可愛かったわ」

「王太子殿下はフェリス様がお好きらしいんですけど……」

「本日レティシア様も驚かれた様に、ちょっと複雑なご親族事情なので……」


「……どうして王太后様はフェリス様が好きじゃないの? フェリス様、ちゃんとお義母様のこと、たててるのに……」


義母上、と呼ぶときの、フェリス様の声が独特だった。義母上たちを見て育ったから、私は父上のような恋はしたくない、と言ったときの、あの凍てついた冬の月のような美貌。深い深い静かな絶望と哀しみが、フェリス様と繋いだ指先から流れ込んできた。


「フェリス様が何をしても、王太后様は気に入らないんですわ! 当家の主人はちゃんと、どんなに嫌なことを言われても、子として孝を尽くしておりますのに、あの方には、大人げというものがないんです!  その上、こんなちいさなレティシア様にまで意地悪を……!」


「リタ。気持ちはわかりますが、またフェリス様に諫められますよ」

「わかっておりますが、腹は立ちます~!」


 うー!! とリタは鏡台の前でブラシを持ったまま、怒っている。

 この悪い気を収めてから、レティシア様の大切な髪に触れますね、と囁いている。


「先王陛下も、フェリス様のお母様も、天に還られて久しいのに、フェリス様だけがずっとディアナ王宮で居心地の悪い思いをされるのは、 私もとても納得のいかぬ思いです…王太后様にはぜひとも心穏やかに落ち着かれて欲しいものです……、でもいつもの王太后様と逢われて御戻りの憂鬱な御様子と違って、今日、レティシア様と帰って来られたフェリス様は幸せそうでした……」


「御二人で手を繋いで帰って来られて可愛らしかったですね」

「フェリス様ね、私がよっぽど心配だったのか、御茶会のあいだずーっと手繋いでたの。おかげで、王太后様以外には、いじめられずにすんだけど……」


「きっと可愛くて仕方なかったんですわ」

「違うと思う。また私が何かやらかさないか、心配だったんだと……」


「そんなことありませんよ。本当にとっても可愛いらしいんですもの、今日のレティシア様」


ただ、もしもできるなら、ずっと繋いでた二人の手から、こないだフェリス様が魔力をわけてくれたみたいに、レティシアからもフェリス様に元気を送れてたらいいのに。


結婚のご挨拶にいって、あの会話は、レティシアとしても困惑以上だったけど、

なさぬ仲のお義母様にもほんの少しくらいはまともに祝って欲しかったろう

息子のフェリス様の方が、ずっと哀しかったろうから。


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