第100話 おうちが一番
「お帰りなさいませ、フェリス様」
「お帰りなさいませ、レティシア様。いかがでしたか、御茶会は?」
フェリス宮に帰りついて、リタとサキの笑顔に癒される。
ほわーんて、全身に入っていた力が抜けていく。
「あ、あのね、二人とも、私、大失敗をば…」
これからはレティシアがこの家の女主人、とサキに言われていたのに、面目ない事態である。王太后様の御言葉は納得できなかったけど、もっとうまく柔らかく交わさなくては……。
「ご立派でしたよ、レティシア様は」
控えていたレイが、声を上げる。
「ご立派にご挨拶されて、当家の名誉を守ってくださいました。多少、誤解は生じたかも知れませんが、あれは王太后様のほうの冗談が過ぎたと私は思います」
レイが生真面目に言ってくれる。
ううう。ありがとう。ごめんね。
次のときは(次があればだけど……あんな子ダメだと二度と呼ばれないかも)、フェリス様のおうちの名誉を傷つけないように頑張るね。
「何かあったのですか?」
女官たちが不思議がる。
「義母上がね……、僕の側妃をレティシアに選べって言いだして」
戸惑い顔の皆に、フェリスが軽く説明する。
「まあ、なんてひどいことを……!」
「結婚前に側妃なんてそんな、王太后様、お若いのにもしやボケはじめ……」
サキは驚きに顔を曇らせ、リタが真剣な顔で悩んでいる。
「これ、リタ。王太后様はあんまりですが、ディアナの国母の君であり、フェリス様のお義母様に失礼はなりません」
「はっ! 申し訳ありません、フェリス様」
「いや。僕も思ったから。義母上、いよいよ、僕を疎んじるあまりにおか…、いや……その……言動が不可解になりすぎだって……ただ何処かで誰かに聞かれて、そんなことで罪に問われてはいけないから、サキの言うように、いつも言葉は慎しんでおくといいよ、リタ」
フェリス様も暴言を吐きかけて、上品に口を抑えている。うん。よかった。みんな変だと思うよね……。
「私では…その…夜のお相手がまだ無理だから、側妃をとのことでしたが、王太后陛下はフェリス様の御子を早く、とお望みなのでしょうか?」
「そんな訳ないよ。ただの僕とレティシアへの嫌がらせだよ。側妃の話も、本気じゃなかったんじゃないかな。そもそもレティシアとの結婚を奨めたのだって、そんなに早く僕に子ができないように、幼いレティシアを僕に娶らせたんだろうと噂されたくらいなんだし……」
そうかあ。
財政支援的にも(もしもフェリス様がある日突然、野望を抱いて、王位とか望んだ場合の)、次世代の跡継ぎを得る為にも、いろいろとレティシアは、フェリス様の封印みたいなかんじなのかー。
なんだかなー。
「申し訳ないです……」
「何が?」
しょんぼりするちいさなレティシアの顔をフェリスが屈んで覗き込む。
「いろいろと……私、フェリス様のお役に立つことができません……」
「何故? 今日もレティシアは僕を守ってくれたよ? 十七年生きてきたけど、あの人から僕を守ろうなんて勇敢な女の子に、初めて逢ったよ、僕は」
「勇敢ではなく、無謀な方が正解です……もっと上手に笑顔でかわして、ちゃんとお守りしなくては」
「そんなこと十七歳の僕にも、たぶんもっと大人にも難しいことだから」
あの場合、どうしたらうまく躱わせたんだろう、と思うんだけど……、何かね……あのとき……、隣にいるのにフェリス様が何処か遠くにいっちゃいそうな気がして、焦りまくってしまって……。
「あのとき、レティシアが怒ってくれて、僕は本当に嬉しかったよ。きっと永遠に忘れないよ。僕を含め、誰も王太后には怒れないんだけど、だからってあの人が正しい訳じゃない。おかしいことはおかしいて言えた方が本当はいい、国としても、人としても、家族……としても……。さあ、サキ、リタ、御茶会デビューとても頑張ったうちのレティシアに、おいしいもの食べさせてあげて?」
「はい。料理長たちが、きっとむこうではゆっくり召し上がれないはず、お疲れの御二人に癒しの食事を、てお出かけの直後から、本日は腕まくりしておりましたよ」
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