第95話 竜王陛下の血を継ぐ者たち

「叔父上。こんど、遊びに伺ってもいいですか? 魔法の呪文で、教えて頂きたいことがあって…」


 遠慮気味に、王太子殿下が問う。


「もちろん。でも私に教えられるようなことあるかな? 私のはかなり我流だから……ルーファスは、マーロウ師から、最初はきちんと正統派の呪文を真面目に習わなくてはダメだよ?」


「でも、他の師の魔法は、叔父上の魔法みたいに優雅でもないし、楽しくもないんです。マーロウ先生が言ってました。ディアナで叔父上が一番、四大の原理を操るのがうまいって」


そうなんだ。

じゃあ、レティシアもフェリス様から魔法習いたいな。

お願いしたら、教えてくれるかな?


「マーロウのお世辞にも程がある。こんどいい果実酒でも差し入れなきゃね。

ルーファス、うちのレティシアも、マーロウ先生に魔法習い始めたんだよ」


うちのレティシア。うちのレティシア。うちの……。


「叔母上も?」


あれ? 

王太子殿下から、おまえとかそなたとか呼ばれてた気がするのに、フェリス様来たら、レティシアは叔母上に格上げされた……なんか身分上がった(!?)……。


「はい。初歩の初歩ですが」


レティシアは、初日の授業から倒れて、フェリス様をびっくりさせちゃったけど……。


「レティシア、顔が赤い。そのいちご水、いちご酒じゃないほうを頼んだんだけど、もしかしてアルコール入ってた? ルーファスも平気?」


フェリスの指がレティシアの頬に触れる。


「……いえ」

「僕は何とも。アルコールは入ってないと……」

「あの。あの」


うちのレティシアになんだか嬉しくなったのです、と言うべきか……。


「レティシア、疲れた? さっき僕が気苦労かけたから……」


フェリスがレティシアを気にしている。


うう。

フェリス様、なんというか天然でいい人なんだよね……。

このお貌で、天然て言うのも、始末に負えない気がするけれども……。


「ち、ちがいます! 疲れてないです!  あの、うちのって……」

「うちの?」

「うちの?」


金髪のフェリス王弟殿下と銀髪のルーファス王太子、竜王家一族が不思議がっている。


「うちのレティシアが、……なんだか」


顔から火が出そうと思いながら、レティシアがやっと訴える。


「……え? でも、レティシア、うちの子だよね?」


「叔父上の花嫁だから、叔父上の家の方で、さらにいうと我が家の方ですよね?」


ルーファス的に言うと、フェリスのところのレティシアであり、もっと言うと、レティシアはディアナ王家の人となるので、ルーファスのファミリーにもなる。


間違えていない。


レーヴェが、レティシアの全く知らないところで、「我が家系にお嫁に来たレティシアは、もう、うちの子だから、オレの管轄」という程度には間違えていない(!?)。


「……はい。でもまだ慣れてなくて」


「そうなの? 具合が悪くないなら、よかった。……うちのレティシア、ダメ? まだ早い?」


「いえ。そんなことはないです……」


ぱああああと、赤くなっているレティシアを、よしよしとフェリスが撫でてくれる。

甥っ子の王太子もいるせいか、フェリスがとてもちゃんとしている。


先刻、心が死んじゃうんじゃないかと、レティシアが心配したフェリスと想えない位に、優しい美貌の王弟殿下として立派に復元していた……。


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