第94話 王弟殿下と小さな貴公子

「ひとーつ。ふたーつ。みーっつ」


レティシアは大きな樹に凭れて、目を瞑っている。

十数えたら、王太子殿下を探しに行く約束だ。

うーん。

フェリス様が帰って来るまでに、王太子様を捕まえて。

王太子つきの女官に届けてあげないと、きっと今頃は涙目だよね、女官の方々。

かくれんぼとか久しぶりだな~。


「ななつ……」

「……レティシア、何してるの?」


甘い声がする。もう聞きなれた声。


「フェリス様……!」


いけない。フェリス様もう帰ってきちゃった。

まだ、王太子殿下捕獲できてないのに。


「あの、かくれ鬼を」

「ひとりで? それとも僕と?」


フェリス様……まあまあ天然なのでは。

いくら、レティシアが変な子でも、一人とか、ここにいないフェリス様と、かくれんぼしませんから!!


とはいえ……。


「あの……小さな貴公子様に誘われまして」


どうなのかな?

一人でお散歩してたのバレたら、王太子殿下、怒られちゃうんじゃ……。


「貴公子? ……レティシア、いちご水飲む?」

「あ、はい!」


わーい、美味しそう~。

フルートグラスに入った、赤いいちご水~。

フェリス様、いつもいつも美味しいものありがとうございます~。


「さて、高貴なる迷子の貴公子、でておいで?」

「……叔父上」


バツが悪そうに隠れてた樹の影からルーファス王太子が出てくる。


わあ。

さっきまであんなに偉そうな子だったのに、借りてきた猫みたいになってる。

王太子殿下、フェリス様に弱いんだあ。


「叔父上、ご結婚おめでとうございます」

「うん、ありがとう、ルーファス。そして小さなディアナの騎士として、

一人残していった私の婚約者の面倒を見てくれてありがとう」


フェリス様、私が! 

この可愛い王太子殿下の面倒みてたつもりなのですが! 

そこは却下なんでしょうか!?


「当然のことです。叔父上の花嫁は、わたしの大切な叔母上ですから」


私、五歳で叔母さんになってしまった……あはは……。

ま、五歳で既婚者になるのも、現代日本ではありえないからね……。


「ルーファスもいちご水飲む? 子供っぽいからいや?」


フェリス様は天使みたいに甥御さんに微笑んでいる。

フェリス様ん家の家庭環境はいろいろと複雑だけど、とりあえず叔父と甥はわりと仲良しらしい。


仲良しというか、ルーファス王太子殿下、フェリス様と話してると、真っ赤なんだけど……。


恋する乙女なのか!?

ん!?

もしや、王太子殿下、同族のフェリス様推しなのかしら!?

それならば、ぜひとも親睦を深めたい。

レティシアは、噂に聞く同担トークというものを、したいのだ!


「いちご水、いただきます、ありがとうございます」


緊張しつつ、フェリス様の白い手から、いちご水いただく王太子殿下、可愛い。

竜王陛下の守護を感じる、美しい竜王陛下直系の御二人だ……。


「それを飲んだら、ちゃんと帰って、心配してる女官達を安心させてあげなきゃダメだよ? ルーファスはディアナのハートなんだからね。皆を心配させるのではなく、安心させてあげなくては」

「はい。叔父上」


レティシアには我儘放題いってた王太子殿下だが、フェリス様には褒められる振る舞いをしたいらしい。


「レティシア」

「はい」

「ルーファスをみててくれて、ありがとう。大切な王太子の身に何かあったら大変だった」

「……私は、何も」


でも、そうだよね。

いくら王太后の宮とはいえ、私達の結婚のご報告の王太后の御茶会で、

この元気な王太子殿下が転んで怪我でもしたら、目も当てられないよね……。


ありもしない陰謀を疑われても嫌すぎる。


それにしても、このいちご水美味しい~。

フェリス様、これを選んでくれてありがとう~。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る