第93話 かくれ鬼の鬼はわがまま

「レティシア、ここで少し待っててくれる?」


「はい、フェリス様」


やっとのことで、王太后の御前を辞して、人気のないほうへと、フェリス様と二人で逃れてきた。


黄色とオレンジの花の飾られたテーブルに、レティシアはちょこんと座って、

言われた通りに、フェリスを待つ。


疲れたー!! 一か月分以上は疲れた!!

そしてごめんなさい、フェリス様、可愛いお嫁様作戦大失敗!!


「あああ。我慢がたりなかったかなー……」


でも、いつになく、黙ってちゃダメな気がしたの……。

レティシア自身のことならべつに何言われてもいいんだけど。

王太后様の言葉に、フェリス様がひどく傷ついてる気がして……。


「……いやもう落ち込んでも、やっちゃったことだし……」


「おまえ、なかなかに勇気のある女子だな」


「……え?」


銀髪のちっちゃい男の子が、何か凄く偉そうに話しかけてきた。

王太后の御茶会のお客様の、貴族の少年……?


「僕は、あのおばあ様に言い返す人間を、この世で初めて見たぞ。

 母様も父様も、みんな、おばあさまには何も言えないんだ。

 おばあさまは凄く凄く凄く強いからな。もちろん、僕も無理だぞ」


お、おばあさま? てことは、この子、王太子殿下……?


「お、王太子殿下?」


「ルーファスだ。おまえは僕の叔母上になるから、特別に、名前で呼ぶのを許してやってもいいぞ」


「お、王太子殿下、こ、こんなところに、御一人で大丈夫ですか?」


「抜け出してきたんだ。 女官たちはうるさいからな」


え、えらそうで、可愛い。


フェリス様のお兄様の国王陛下のお子さんだよね。

フェリス様と似てはいないけど、可愛いらしいお顔立ち。


「ちいさいのに叔父上の妃とは生意気だと思ってたけど、

そなた、なかなか、見所のある奴だ。僕が、遊んでやってもいいぞ」


王太子殿下に、ナンパされてしまった……。

というか、たぶん、王太子殿下、退屈してたんだろうね。


フェリス様の側妃候補なのか、妙齢の御令嬢のゲストが多くて、

小さい子なんて、レティシアと王太子殿下のほかにはいなそうだし……。


「何をして遊ぶのですか、殿下?」


「かくれ鬼かな!!」


う、嬉しそう。瞳がきらきらしてる。


これは、かくれんぼ、してさしあげねば。


「では、私が鬼になりますね」


うーん。鬼と隠れる人、どっちが安全かなあ、と悩むけど、王太子殿下を鬼にするのもにゃ……。


「私、探すの下手なので、殿下、遠くに行かないで、近くで隠れて下さいね」


念のため、お願いをしておく。


「わかった。そなたのために、遠くには行かない」


殿下は上から王子だけど、聞き分けがいいっぽい。いい子!!


「では、十、数えます。殿下、きっときっと、ちかくに隠れてくださいね」


何度もお願い。王太子殿下に、危険があっては一大事!!


「そなた、なかなかの甘えん坊だな」


それはちょっと違うけど、近くに隠れてね!!


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