第66話 いまはもういない少年の影と、美しい引き籠りの君


「そのうえ殿下が、えらく竜王陛下に御顔が似てきてしまったので、何やら言う奴もいてのう……そんな野心家な方ではないのに。フェリス殿下は兄君をたてていらっしゃるから、周りにうるさく言われるのを嫌って、すっかり遊びにおいでにならなくなってしもうた。なので、最近お会いできなくて、わしらは寂しがっておる。殿下が、すっかり自分の宮に引き籠りになってしまわれて、残念じゃ」


「せ、先生、引き籠りって……。よく通ってらしたのですか、フェリス様は」


しょんぼりしてるマーロウ先生。


「昔は、殿下が、魔法省に入り浸ってたころもあったのじゃよ。新しい魔法を覚えるのが楽しくて仕方ないという様子での」


「フェリス様は勉強熱心だったって、昨日、ランス先生が……」


「そう。学ぶのが好きな御方での。御本人は、何もかもいろいろと飽きてしまったんだよ、と笑ってらっしゃるが、隠れて御一人で研究してらっしゃるんだろうと、わしらは思うておるよ。……おっと、余計な無駄話をしてしもうたな」


「いえ」


年寄りは話が長くていけない、と笑うマーロウ先生に、ぶんぶんレティシアは首を振る。


「嬉しいです。王弟殿下のお話。フェリス様のこと、何も知らないので」


ちっちゃいフェリス殿下は、昨日から聞き齧ったところによると、お勉強好きで、 なんで? どうして? ていっぱい質問する可愛い少年だったんだろうなーと…。

思うに、いまよりは外向きの少年だったのでは?


「姫様はフェリス様をどう思いになった?」

「……? とても綺麗で、優しくて」

「ふむふむ?」

「少し、寂しい瞳をした方だなと……」


あんなに綺麗で、何でもできそうな人なのに、何処か諦めたようなあの硝子細工のような青い瞳が何だかもったいないなあ、て。


レティシアだって、せっかく生まれ変わってきたのに、またお父様もお母さまもいなくなった、婚姻て言われたけど、ただ誰かの邪魔にならない場所に行くだけ、と思って、ここに来たんだたけど……。


どうしてかな。フェリス様には幸せでいて欲しいって思うなあ…。


「そうさのう。王弟殿下は魔法に限らず、いろんな才に恵まれているけれど、いろいろとお立場的に言動が不自由な御方だ。可愛らしいレティシア姫が、孤独なあの方を幸せにして下さるとよいのう」


「私……」


悩みごとの相談相手になるにも、今のレティシアでは小さすぎるだろうし、中身はけっこうな大人ですから、どんとどうぞ! と言われたところで、フェリス様もただ困惑だろうし…。


いまのところ、変なこと言って、大笑いして頂くのが、関の山では、なんだけど。

でも、肩の凝ることも多い王宮暮らしのなかで、少しでも気晴らしになれるといいなー。


「そんなに難しく考えなくても、姫はすでに陽の気をここに連れて来てるよ。では、大事な御夫君のフェリス殿下の昔話はさておき。レティシア姫の初めての魔法学じゃ」


「はい、先生!」


うんと簡単な魔法を教えてもらって、覚えてフェリス様に見せたいなー、と、初めてのお使い気分のレティシアである。


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