第65話 魔法の授業

「今日は、魔法の講義があるよ」


と、フェリスから言われて、レティシアは朝からずっとときめいていた。


魔法の講義!

それでこそ、ファンタジー風な世界に生まれ変わって来た甲斐もあるというもの!


サリアでは、魔法に関わる人間は、その職業の者のみに限定されていた。

ディアナでは、普通の人も、魔法と触れ合えるらしい。


「レティシア姫。我らが王弟殿下の妃となる方に、お会いできて、光栄ですぞ。私はマーロウ」


「こちらこそ、お会いできて光栄です。マーロウ先生」


魔法の先生は、ランス先生と同じくらいの、白髪、白髭の方だった。

うん。

かっこいいおじいさんの先生の方が、ハリーポッターとかロードオブザリング感が出てていい感じ。


「まずここディアナでは、王族も貴族も庶民も子供の頃から読み書きと共に魔法学を習うのじゃが……、王弟殿下のお話によると、姫の国、サリアには魔法の授業はないとか」


「はい。私の国サリアでは、魔法を習うのは、魔法の仕事をする者のみです。選ばれた魔法の才能のある者のみが、魔法学校に入り、修練を積みます」


「なるほど。それでは魔術士以外の者はまったく魔法を使えんのかの」

「はい」


 こくんとレティシアは頷く。マーロウ先生は、皺深い瞼の下で、青い瞳を珍しそうに輝かせた。


「それは我らから考えると、やや不便じゃの。才能の多寡はあるが、誰でも、多少の魔法が使えた方が便利じゃからの」


「誰でも? 私でも何か魔法が使えるようになりますか?」


「もちろんじゃよ、レティシア姫。山を崩したり天気を変えたり姿を変えたりするような魔法は、誰でも出来る訳ではないが、ちょっとした魔法なら、誰でも使えるようになるよ」


「本当に!?」


嬉しい!  私にも、魔法で何か出来るようになるのかな~。

箒に乗って、空飛べたりしないかな~(それはちょっと高度な魔法なのかな……)。


「姫の夫君になられるフェリス殿下などは、とても魔法が達者じゃよ」


「そうなんですか? フェリス様が魔法使ってるところ、見てみたいなー」


マーロウ先生もいかにも古の魔法使いって外見だけど、フェリス様が有能な魔法使いなのもとても似合いそう。


「最近は殿下はすっかり大人しくなられて、あんまり魔法を使わぬからのう。魔法省が、ずっと、フェリス様を欲しがっていたのだけれど、殿下は、大人になったら魔法が下手になった、と仰ってな……」


「そんなことあるのですか?」


天才児も二十歳になるとただの人、みたいなことが、魔法学でもあるのかなー。


「それはあるよ。子供の頃に達者に魔法を操れてた子が、あるときを境にさっぱり使えなくなることは、魔法の世界では多々ある。ただ、フェリス殿下のは、魔法が下手になったんじゃなくて、魔法省に魔力のことを調べられるのが嫌になって、しらばっくれてるんじゃとわしは思うが……」


「しらばっくれるフェリス様」


落ち着いた雰囲気のマーロウ先生とフェリス様に、その単語は似合わなくて、ちょっと面白い。


「ふむ。みんなが、子供の頃に、うるさくしすぎたんじゃと思うよ。昔のディアナは、王家の方の魔力が最大だったんじゃが、最近は魔力の薄い方が多いから、フェリス様は、久々の王家の魔力再来では!?とうちの魔法省がはしゃいでしまってね」


マーロウ先生のお話を聞いてると、昨日のランス先生の

「私は殿下をあのまま育てて差し上げたかった」

て少し寂しそうな声を思い出す。


マーロウ先生の方が、「ばっくれてる」ていうくらいの、茶目っ気があるけど……

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