第54話 最強の情に脆い神様

「少し気になったのですが…」


「ん? 何だ?」


フェリスの父親はディアナ前国王ステファンだが、フェリスはステファンとレーヴェほど会話した記憶がない。


実の父親より、神話に出てくる神様とのほうがよく会話してるというのも、我ながらどうなんだ? とは思うが。


「サリアの寿命が二十年もディアナより短い、とレティシアが言ってましたが、何が原因なのでしょう?」


「生き物が長生きできない理由は、たいがい、その大地が痩せてるとかだけどな。

肥沃な大地なのに生命が失われやすいとしたら、上に乗っかってる者の運営のやり方に問題があるかも知れん」


戦う武神として絵巻によく描かれているレーヴェだが、その本性は水の神であり、基本的には守護している土地の五穀豊穣を司っている。


「ディアナの民の寿命が長いことには、レーヴェが関与してるんですか?」


「それはディアナの状態が悪くないから、付随して寿命も延びてきてるだけだと思うが。そもそも、オレが関与しようとしまいと、自分の国のことは、そこで暮らす民自身が自分で頑張らないと、何ともならない。神様任せだけで、国なんぞ豊かにならないし、栄えん。しかもオレ、ぜんぜん万能の神様なんかじゃないし」


「レーヴェが万能じゃないことは知ってます」


「おまえ、そこだけ強調するなよ」


万能の神様では全然ないけど、優しくて、情にもろいことも知ってる。


孤独で死にそうな、ひとりぼっちの子供がいたら、放っておけないレーヴェ。


ちいさなときに、フェリスのところに顕現したのも、たぶんそれが理由。


そしてたぶん、アリシア妃やフェリスはレーヴェの声を拾いやすいから、

手を貸してやりたいと思った時に、手を貸せるんだと……。


「万能じゃない神様なオレだけど、レティシアはもううちの子だから、守ってあげたい。フェリス、レティシアの部屋にも、オレの肖像画おいてあげて」


「嫌ですよ。何を、僕の花嫁の部屋に入り込もうとしてるんです」


ねだるレーヴェに、フェリスが嫌な顔をする。


「だってなんかレティシアに悪いもんが寄ってきたら、撃退してあげたいじゃん。 寂しいときには傍にいてあげたいし。これからきっとフェリスに言えない話も聞いてあげなきゃだし」


「サリアの女神に嫌がられますよ。どうしてあなたはそう何でも持ってるのに、他所にまで、ちょっかいかけるんだって」


「そんな不埒なことはしないぞ。オレは呼ばれないと、何にも出来ないからな。シャイで内向的な神様だからな。でも、あの子はオレを呼んだから、もううちの子」


「アリシア妃にレーヴェが浮気しそうですってお祈りに行きますよ」


「アリシアは苦労してる小さい子の面倒をみてあげてねレーヴェて言うよ。オレよりずっとおせっかいだもん」


レティシアも、フェリスの妃としてディアナ王族となるので、ディアナの守護神レーヴェにとって、フェリスと同じく、レティシアが「うちの子」になるのは間違いない。


そして、なんのかんのいっても慈愛深き神であるレーヴェの加護を手に入れるのは、

レティシアにとって最大の祝福になるのは間違いないのだが……。


レーヴェの「うちの子」扱いが気にかかるなんて、フェリスはきっと疲れているに違いない。


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