第49話 竜王陛下にお願い
「レティシア様、お食事の為のお召し替えを」
部屋で一人で、くまのぬいぐるみとお喋りしていたら、女官長のサキにそう言われた。
「え? 私も?」
そうか。レティシアは出かけてないけど、やはり晩餐の為に着替えるべきなのか。
「はい。きっと、フェリス様が喜ばれますわ」
「そーかな?」
フェリス様が喜ぶかどうかはわからないけど、丁寧に作って頂いたお食事と、晩餐相手のフェリス様に礼節を欠いてはいけない。
「明日は、レティシア様のドレスの注文をしようとフェリス様が仰っておいででした」
「ドレスはたくさん持って来たよ?」
さすがに、婚礼の荷物は作って貰えた。
レティシアへの愛情ではなく、サリアの国としての威信をかけて。
「もちろんでございます。ですが、こちらの家でも、花嫁様をお迎えした喜びとお祝いを込めて、新しい女主人の御衣裳をたくさん仕立てるのが、当然のことでございます」
「そうなの?」
でも、何と言っても、成長期なので。
あんまり、たくさん仕立てて頂いても、全部着れないうちに、サイズ変わるのでは、と心配。
サリアから持って来たドレスも、そんな気持ちでぼんやり眺めていた。
お母さまと一緒に楽しく、結婚にわくわくしながら選んだ婚礼道具、とかではないので。何というか、あまり、思い入れがない。
たくさんあったから、頑張って、サイズ変わらないうちに着なきゃ、仕立ててくれたお針子さんに申し訳ないーくらいだ。
「はい。フェリス様は趣味がよくていらっしゃいますから、きっとレティシア様に似合うものを選んでくださいますよ」
「フェリス様が選んでくださるの?」
そんなことまでして下さるんだろうか。
それはだいぶ、夫というより、保護者マインド入ってるのでは…。
「今日は王宮で、お喋り好きの御婦人に、祝いの言葉とともに、貴婦人方のあいだで流行っている仕立て屋まで薦められたよ、と笑っておいででした」
「……! そうですね。私があまりおかしな恰好をして、フェリス様に恥をかかせてはいけませんね」
ぼんやりしていたけど、衣装はやはり貴婦人たちにとっては、戦闘道具。
そこは、きっと手を抜いてはいけない。ああでも…。
「もうちょっと、大きくなりたいな、早く」
ぽつり、と思わず知らず、呟いてしまう。
着飾ってフェリス様と並んだところで、いまの姿じゃ、ちいさすぎて、花嫁になんか見えないと思う。
よくて、似てない可愛い兄妹…。
めっちゃ兄が美形で、妹やや残念的な…。
「まあ、レティシア様。お急ぎにならずとも、すぐに成長されますよ。これから美しい花が咲くように、 レティシア様は、どんどん綺麗になられます」
優しい母親のように、サキがレティシアを慰めてくれる。
「そうかなあ……」
綺麗になれるかどうかは、この際、ひとまず、おいといて。
十歳くらい、大きくなりたい。
だって、なんて言うか、並んだとき、どう見ても変だもん!!
優しいフェリス様が、嫌味な宮廷人に、小さい花嫁のこと、影であれこれ言われないように、レティシアが、一晩で、めきめき成長できないかなあ…。
レーヴェ竜王陛下、何とか、お願いできないでしょうか…?
(新参なのに、無茶を申しすぎでしょうか…)
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