第41話 戸惑う小さな王弟殿下


「王弟殿下は私の教えたなかで、一番、聡明な生徒でね」


さすが、我が推し!


レティシアが目を輝かせて食いつくと、先生も愛しげに自慢の生徒の話をしてくれた。


「凄まじい速さで、知識を吸収する子供でね。学び、思考し、他の者とは違ったことに対して疑問を持つ。私には大変可愛い生徒だったが、優秀すぎて、生半可な教師だと、すぐに殿下の学びの歩みについていけなくなってしまう。姫ぐらいの御歳の頃に、持てる力を持て余して、途方に暮れてらしたよ」


「途方に?」


「ランス、僕は質問をしすぎか? 先日、数学の教師が、僕の授業のあと、倒れたと言うのだ。僕は僕のささやかな疑問を解き明かしたいとは思っているが、何も人を病気にしたいとは思っていない。


僕はランスの授業がいちばん楽しくて、いちばん楽だ。他の者だと、他愛ないことを尋ねたつもりで、ひどく教師を困らせてしまうんだ。


僕は誰かを困らせたいわけじゃないのに。いったい、あたりまえの五歳の王子とは、どんな振る舞いをするものなんだ? 何故、そんなに、僕は人と違うんだ?」


「か、可愛いい……」


可愛いけど、可哀想。

早熟すぎる天才少年の悲劇と言うか。


フェリス様、自分が天才少年で周りにあわせるのに苦労したから、雪の入ってるレティシアが、子供らしくない振る舞いしても、変に思わないでいてくれるのかなあ。


「じゃろう? いろんな才能のある方で、それなのに、誰かを脅かしたりせぬ、可愛い王弟でいなければ、と、子供の頃から気苦労が多くてね。いまは随分大人になられて、いろんなものを隠すのもすっかり上手になってしまわれましたが、私は、あの頃の、この世界に対する興味を隠せない不器用な殿下のまま、育ててあげたかった」


「フェリス様は、ランス伯の自慢の弟子なのですね」


「いやいや、そんな恐れおおい」


可愛いなあ、ちっちゃいフェリス様。

逢いたいなー。

もう大きくなってるから、逢えないんだけど。


(どうして、僕は)


「あの鍵……」


図書宮の黄金の鍵。


あの鍵をくれたのは、


どうして僕は人と違うんだ?


と途方に暮れてた、そのちいさな男の子なんだ。


それは何だか、生まれた時から万能に見える美貌の王弟殿下に頂いたよりも、もっと愛しいような……。


「鍵?」


「私が、本が好きだと言ったら、フェリス様が、図書宮の鍵を下さったんです。

私、国許では、本ばかり読んでる小さな女の子はおかしい、と言われて、居心地が悪かったので、とてもとても嬉しかったです」


たくさん本を読んでもいい。ちいさな女の子が、難しい本を読みたがっても変じゃない。て初めて認めて貰えた気がして。


「それは、同族への贈り物だね。私も本好きだからその贈り物は宝石より嬉しいね」


「ですよね、先生!」


先生、フェリス様、推し仲間に勝手に心で認定致しますね!

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