第39話 お昼は、春野菜のパスタ

午前中、礼儀作法の授業を受けて、先生が帰られてから、ランチ。先生とお茶しながら、お菓子も摘まんだんだけど、お昼の春野菜のパスタもとっても美味しかった。


菜の花とアスパラとお肉の入ったクリームパスタを、薔薇の咲くテラスで給仕してもらって、一人で食べながら、レティシアは、フェリス様は、何を食べてらっしゃるかな? と考えていた。


「推し活っぽい…」


「レティシア様、何か仰いました?」


「ううん。何でもない」


レティシアは小さく上品に首を振った。上品に心がけただけで、出来ているかどうかだいぶ謎だけど。


昨日から接していると、フェリス様の仕草があまりにも優雅なので、少しは真似よう…と密かに思って、ちいさく真似してみる。そもそも素材が違うから、無理があるとは思うのだけど、努力は大事。


「何をしてるときも、推しはどうしてるのかなあ、推しならこんなときどうするかなあ、て思うの」


昔、推しの為にバイトしてる、と言ってた女の子がそう言っていた。

その子はとってもよく働く気の付く子で、同じシフトにその子が入ってると、ほっとしたものだった。


「毎日、推しがこの世に生きてるってだけで、もう人生幸せ!」


なんだか凄いパワーだ、羨ましい、と思ったものだ。


まだまだ、推し活初心者のレティシアは、その高みまでは至れてないが、


(フェリス様はランチ、何を食べてらっしゃるんだろう?)


と、不意にそんな思考がふんわり浮かんできて、驚いた。


これこそが、まさに、推し活というものなのでは!!


ディアナに輿入れが決まって、何か月も前から準備に入った。


でも、絵姿も送られてこなかったので、「変わり者」「変人」「冷や飯食いの王弟」「氷のように冷たい男らしい」との悪い噂ばかり伝わってきて、正直、まだ見ぬ婚約者に怯えこそすれ、何の期待もしていなかった。


「いくら噂にしても、もう少し、真実を伝えるべきでは」


レティシアは、だんだん腹が立ってきた。勝手に怯えていた旅の前の自分はおいといて、罪もないフェリス殿下の名誉が汚され過ぎてる。美しくて優しい方なのに。


「何の噂ですか、レティシア様」


「王弟殿下の噂です。変わった方だとか、冷たい方だとか、あまり真実を伝えてない気がします」


「変わった方なのと、そんなに誰にでも優しい方でもないのは、真実ですよ。殿下は、レティシア様を気に入られたので、レティシア様には特別にお優しいですが」


フェリスの影のようなレイが、あっさり認めている。

そこは認めないで、殿下の名誉の為に、一緒に怒って欲しい。

大事な、フェリス様の推し仲間として。


(勝手に心で、推し仲間として認定中)


「それは…、殿下はきっと、はるばる遠くから来た子供を気の毒に思って下さって……」


そういう殿下の自然な優しさを、世の人にもちゃんと伝えたい。


だって、悲惨ルートなら、こんな子供、用はない、何処かに捨て置け、て邪険にされるパターンもありだったと思うの。


「それも真実ですが、いつになく楽しそうですよ、レティシア様を気遣うフェリス様は」


そうなのかなあ。

でも、そうだったら嬉しいなあ。

レティシアも、フェリス様のこと考えてると、何だか、とても楽しいので。




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