第22話 くまのぬいぐるみと黄金の鍵

 「はうう…」


 レイが下がって、女官も下がって、レティシアは広いベットに倒れこんだ。


 広すぎる、このベッド。


 何なら、レティシア七人くらい寝れるのでは。


 白雪姫の森の小人にでもなった気分…。


「つか、れた!!」


ベッドには、レティシアの年齢を思ってか、くまのぬいぐるみが置かれている。


そうだよね。


五歳といえば、くまのぬいぐるみ抱いて、お菓子食べたいばかり言ってる年頃だ。


間違っても、嫁に行く歳ではない。


「ん? なんか、このクマさん、リボンに…」


赤いリボンに手紙が結ばれている。


「レティシアへ。何か不自由なことを、僕に言いにくかったら、手紙を書いてくれたらいいよ。本が好きだと言ってたから、図書宮の鍵をあげる。いつでも出入りができるようにしておくよ」


「フェリス様、神…!?」


クマが抱えていた金色の鍵を、レティシアは輝く瞳で見つめる。


嬉しい!


本が読める!


そして、うちの王弟殿下は、小さな少女がたくさん本を読んでても嫌がらない!


神!!


「御恩、感謝……!」


ディアナは古い王国で、レティシアの国サリアでも、ディアナ文字が使われている。


かつての英語すら苦手な日本人の雪からすると、魔法の文字のようなのだけど、昔から文字を読むのが好きだったので、転生しても、貪るように楽しく読んでいたら、


(小さいのに、本ばかり読んでいるおかしな姫様)


と不評を買った。


失敗した。


普通の子供らしさがたりなかったのかも知れない。


何と言っても、中身は、二十七歳だし。


(違いすぎ)


自分がレティシアなんだけど、ちいさなレティシアの評判を傷つけて、とっても申し訳ない気がした。


本来ちゃんと得るべきだった可愛らしい、愛らしい姫様、の評判のかわりに、小さい癖に、本好きで、理屈っぽい、おかしな姫様の悪評を着せてしまった…。


「うう。フェリス様、いいひと…」


金色の図書宮の鍵を胸に抱きしめて、レティシアは喜びを噛み締める。


王弟殿下は、レティシアが、普通に話しても、奇妙がらない。


ま、フェリス様、


幼児と触れ合う機会なさすぎて、


「小さい女の子とはこうあるべきもの」


の基準がないだけかもなんだけど。


どころか、


「人見知りだから、僕は、他の男がどうかはあまり知らないけど」


て言ってたから、総じて、人間全般の基準に疎いだけかもだけど。


それでも、ありがたい。


ここなら、少し、楽に、息ができる。


生まれた国(生まれ変わった国)なのに、いままでずっと、遠慮して暮らしてきたから…。


「ほっとしたら、ねむくなった……」


ええと。


この後、もう行事なかったかな。


夕食、とらなきゃダメなのかな。


でも、とりあえず、眠い…。


寝ちゃう……。


ひとくちだけのシャンパンのせいか、薔薇水のせいか、花婿との顔合わせを無事終えてホッとしたせいか、ちいさなレティシアは、くまのぬいぐるみと、図書宮の金の鍵と、優しい王弟殿下の手紙を抱いて、満足そうに眠りに落ちた。










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