第19話 薔薇水は甘い
「シャンパンは? レティシア」
王弟殿下の手の華奢なフルートグラスのなかで、シャンパンが金色の泡を立てている。何でも絵になるフェリス様が持ってると、シャンパンもとっても高貴に見えて、美味しそうだ。
とはいえ、レティシアは、 いまはとても小さい身だし、日本時代の妙齢?の二十代の娘の雪だったときも、シャンパンの味なんてわかった試しがない。優雅なお金持ちは、ビールでなくお洒落なシャンパンで乾杯するらしい? くらいの認識だ。ビールも苦いから苦手だけど。
あ! もしかして、レティシアのちいさいボディは、西洋風の王国生まれだから、シャンパンやワイン好きの遺伝子を受け継いでるかも?
「私の可愛い花嫁に」
「麗しのフェリス殿下に」
フェリス様がレティシアに乾杯してくれたので、レティシアもシャンパンのグラスを持って、フェリス様の幸福を祈る。
我ながら、本で読んだことしかないような言葉がすらすら出てきて、それがちっともお世辞じゃないのが凄い。
「……美味しい?」
「あまり、わかりません」
シャンパンを一口舐めてみたレティシアは、首をかしげる。
うーん。アルコール好き遺伝子は受け取ってないか、まだ目覚めてないのかも。
「もう少し大人になってからかな。いまのレティシアには、薔薇水のほうが口にあうかも?」
「はい」
薔薇水は、可愛い名前からして、シャンパンより楽しみだ。
転生して気が付いたけど、王族や貴族ってよく食べる。全員、太らないのが不思議なくらい。
それにしてもアフタヌーンティて日本でも流行ってたから、行ってみたかったんだよね。平日の昼下がりとかにやってて、会社から帰るのが遅い社畜の雪には夢だった。
ありがとう、神様。
こんな美貌の王子様付きでアフタヌーンティの夢、叶えてくれて。
仲良しの女の子同士の女子会が夢だったけど、風変わりな美貌の王弟殿下でも文句言わない。
「いい香りです」
シャンパンは金だけど、薔薇水は淡いピンク。
グラスが並んでいると、お互いの色が映える。
「薔薇水は東方から伝わったのだけれど、ディアナでも女性を中心に広く愛されてね。いまでは薔薇の谷で、多くの人々が千も万もの薔薇を育てて加工品を作り、生計を立てるまでになった」
遠い東方の国から伝わったのかあ。交易の盛んなディアナらしい話だなあ。
「甘い」
シャンパンの後のせいか、大人っぽい味を想像してたら、薔薇水は、うんと甘かった。
「ああ。じゃあそれは、花嫁さん用に甘くしてあるんだね。甘くないのもあるんだよ。美味しい?」
「美味しいです」
美味しくて、思わず笑顔が浮かぶ。
やっぱりこう、いろいろ緊張してるせいか、甘いものに凄く癒される。
「気に入ったら、姫の部屋にも用意させよう。飲むのとね、肌につけるものも」
「薔薇の化粧水的なものですか?」
嬉しいな。これがお部屋にも。とレティシアは瞳を輝かす。
「そう。綺麗なレティシアの肌には必要ないくらいだけどね」
「いえ。乾燥してたので…嬉しいです」
生まれ変わってとても若いので、お肌は艶々なのだが。
ここ数日、なんだか、肌がザラザラしていた。
「ああ。レティシアの国と、気候が違うからかも知れないね。旅の疲れもあるだろうから、今夜は早く眠るといい」
「はい」
少なくとも。
昨夜よりは、ずっとよく眠れそう。
王弟殿下が、レティシアが想像してたような怖ろしい人ではなかったので。
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