第3話 美貌の婿殿とお話しする



「……触れても、大事ないか?」


「は、はい」


 おっかなびっくり。


 慣れない小動物にでも、手を伸ばすように、フェリス王弟殿下が、手を伸ばしてくる。

 思うに、この人は、レティシアぐらいの年齢の者と接した経験がないのだ。


 まあそれはフェリス様は、 王室でも孤立してる方だと噂されてるので、 

たとえ下のご兄弟がいたとしても、親しく接してはいないのかも。


「私はずいぶん年上の夫で、幼いあなたには、とても不本意なことだとは思うが」


 不思議だ。


 この綺麗な変人の王子さまは、レティシアの都合や気持ちを聞いてくれる。


 小さなレティシアの気持ちなど、誰にとっても、どうでもいいことなのに。


「あなたは私に属するものとなるのだから、私が約束する。これ以後、誰にもあなたを害させない。私が、ここでのあなたの安全を保障する」


 何と、曇りのない、美しい青い瞳。

 空と海から、透き通った青だけを、集めたような瞳。


 両親を失い、厄介払いのように、 五歳で、嫁に出されたレティシアの身の安全を保障してくれるという、美しい婿殿。


 いい人だ。


 私も、この優しい婿殿をお守りしよう。

 少なくとも、聞かされてきた、恐ろしい変人というのは、誹謗中傷に思える。


「レティシア…?」


「姫様、いかがなされましたか…」


 いけない。

 ここに来て、初めて優しい言葉をかけてもらって、嬉しいのに、感極まりすぎて、涙が出てきた。


 お礼を。お礼を、言わなくては。


「……、……っ」


「大丈夫か、姫。長旅の疲れがでたのか?」


 美貌の婿殿が、心配そうな顔をしている。

 この人、綺麗な顔過ぎて、無表情に見えるけど、ちゃんと細かく表情あるんだ、とレティシアは、こんなときに妙なことに感心している。


「あり、……がとう…、ございま…、」


「…絹を…、姫の御顔を拭くものを…、レティシア、泣いていいから、焦らず、息を吸って」


「……、は……い……」


涙で、よく、婿殿が見えない。

私もお守りしよう。


婿殿は、無理やり押し付けられた、こんなちびの花嫁にも、敬意を持って接してくれる、お人よしの美形殿だ。


そんないい人は、人生、苦労が多そうだ。


私も、きっと、この美しい、優しい婿殿をお守りしよう。

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