小学生の有休

うたた寝

第1話

 平日、にも関わらず、彼女のランドセルは学習机の上にドーンと置かれている。

 サボったのか? と聞かれると、そういうことではない。単純に体調不良である。

 予兆はあって、前日の夜、異様な寒気を感じた。だから早めに寝はしたのだが、寒気がしてから対応しても手遅れであったらしく、次の日起床してみると、異様な寝汗と頭痛、計ってみると熱もあった。

 早めに寝たことで悪化は免れたか、熱は微熱程度で頭痛も軽度。学校に行けないほどでもなかったのだが、このご時世、ちょっとでも熱があると学校への立ち入りはできない。まぁ、別にご時世じゃなくても、体調不良の状態で行きたくはないが。

 ということで、ちゃんと正当な理由を持って学校を休んだわけだが、元々そこまで体調が悪かったわけでもない。両親は共働きで朝から不在。誰も居ない家は静かで眠るのには快適。朝から寝続け日頃の睡眠不足も解消。お昼過ぎにはもう大分回復していた。

 体調が回復してもぶり返しては困るし、学校を休んだという負い目もあるので遊び回ったりはしないが、それでもずっと寝続けて腰も首も痛いので、布団の中で起き上がってスマホを弄る。何かメッセージがいっぱい着ているのでそれを確認していくことにしよう。

 まず母親。こちらはメッセージが着ているわけではないが、返事が無いか確認する。体調不良をいいことに『アイス食べたい』とおねだりを送ってみたが、返事が無いどころか既読も付かない。仕事中なのか知らないが、冷たい母親である。可愛い愛娘が床に伏しているというのに心配ではないのだろうか。腹いせにスタンプを大量に送り付けておくことにする。

 一方、お父様。貴方は心配し過ぎである。長文の文章が大量に送り付けられてきている。これ、具合が悪い人間が読めると思っているのだろうか? 元気になった今でも読むのが憂鬱である。面倒なので読みはしないで、スタンプだけ返しておく。

 以上。大量の未読通知の100%が父親からのものであった。父親からの深い愛情にはとりあえず感謝するとして、それは置いておいて、友達から全然連絡が無い。何と薄情な奴らだ。全員ブロックしてやろうかと思ったが、みんなは今通学中であることを思い出した。下手にスマホを校内で弄ると没収される危険性もあるため、学校には持っていかない者も多い。その可能性を考慮して、ブロックにはもう少しの猶予を与えることとする。

 メッセージ確認も終わってヒマになったので、ソシャゲをやることに。ログインボーナスとデイリーミッションをこなさなくては。ログイン時間で友人に学校休んでソシャゲをやっていることがバレる可能性もあるが、まぁ気にしない。何せ、みんなが学校に行っている時間にこちらのログイン時間を確認できる、ということは、学校内でスマホを弄った、ということを自分で認めるようなものだ。諸刃の剣となるため、先生に言うなどのこともできまい。

 というか、むしろ友人の最終ログイン時間が一時間ほど前なのだが? アイツ、学校内でスマホを弄るな、なんて固いことは言わないが、スマホ弄る時間があるなら一言くらいこちらの体を労るメッセージでも送ってほしいものである。

 みんなが学校で勉強をしている間に、家で布団の上でソシャゲをやるのはまた格別である。選ばれた者だけの特権とでも言おうか。気分的にはタワーマンションの最上階の椅子に踏ん反り返り、地面であくせく働いている人間を見下ろしている気分である。

 ガハハハーッ! と、庶民を嘲る大富豪のようにソシャゲに興じていたのが良くなく罰が当たったか、頭が痛くなってきたため、額に冷やすシートを貼って、再度仮眠を取ることにする。不調を感じたらすぐ休む。悪化させないポイントである。

 ふぁ~あ、と欠伸をしながら起き上がると、もう夕方になっていた。頭痛はすぐ寝たおかげで治ったようだ。熱を測ってみても平熱。問題無い。

 喉が渇いたので冷蔵庫の方へ移動すると、インターフォンが点滅していた。どうやら寝ている間に誰か来たようである。録画された映像を確認してみると、同級生の……、名前は分からない男子が映っていた。

 何しに来たんだ? コイツ、と思っていると、郵便受けに何かを入れて去っていく。ああ、なるほど。学校の先生とかからプリントを持っていくように頼まれたらしい。

 来た理由には納得したが、アイツ、家こっちじゃないよな? という疑問は残った。こっちが帰り道の生徒などいくらでも居たと思うのだが、何故先ほどの男子が届けに来たのだろうか? まぁ、プリントを届けてくれたことには感謝しておこう。

 コップ一杯麦茶を飲んで、寝床へと戻った後、スマホを確認。

 ようやくお母さまから返信が着ており、『うるせぇぇぇぇぇっっっっっ!!』と愛娘からの大量のスタンプ攻撃に歓喜されているご様子。怖いので見なかったことにしよう。

 学校という社会の檻から解放されたのか、友人たちからもチラホラメッセージが着ている。『大丈夫?』、『ゆっくり休んでね』など優しい気遣いをしてくれる友人たちには『ありがとう』と返しておく。『サボり?』と失礼なことを言ってくるやつはとりあえずブロックしておく。後、気遣ってくれてはいるが、こちらのIDを教えていないハズの人からメッセージが着ている。こちらはお母さまのメッセージとは違う意味で怖いので、これも見なかったことにしておく。

 時間を確認すると、両親たちが家に戻って来るのにはまだ2時間ほど掛かるだろう。帰って来るまで寝ていようと、再び布団に入り込みぬくぬくすることにする。

 小学生だって疲れるのだ。たまにはこんな日もあっていいだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

小学生の有休 うたた寝 @utatanenap

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ