第51話 こもれび2

51話 こもれび2



「いらっしゃいませ。お二人様でよろしかったでしょうか?」


「はい。二人です」


「畏まりました。ではご案内いたしますね」


 俺たちを席まで案内してくれたウエイトレスさんは、見たところ二十代前半か……もしかしたら大学生さんなのではないかと思えるほどに若い女の人だった。


 店内の雰囲気としては完全におしゃれなカフェだ。置いてある小物やちょっとした植物、優しい色合いの装飾など、店内に映る全てがとにかく子綺麗で。街中にひっそりと営業している隠れた名店感がある。こういう所に入るのは初めてだから少しソワソワしてしまうな。


「こちらお冷やとお手拭きになります。ご注文お決まりになりましたらお声掛けください」


「ありがとうございます」


「あ、ありがとうございます……」


 テーブルの端にブックスタンドのような物で立てられているメニュー表もまたおしゃれだ。なんか本っぽいというか……あれだ。日記帳みたいな感じ。


「で、葵さん? いつまで顔赤くしてるんですか?」


「へっ!? そ。そんなに赤い……?」


「そりゃあもう。せっかくさっきは見て見ぬ振りしたのに。流石にその状態で正面に座られたらなあ」


「だ、誰のせいだと思ってんだよ。あんな……不意打ちみたいなことしやがって」


「さて、なんのことやら」


 メニュー表を手に取り、二人で見やすいよう横向きで広げる。


 勝手な偏見でこういうカフェにはコーヒーが大量にラインナップされているのかと思っていたが、どうやらここでは違うらしい。


 コーヒーもあるにはあるのだが、種類は二種類でアメリカンとエスプレッソのみ。その代わり、フルーツジュースやクリームソーダなど、どちらかと言えば甘い飲み物に種類が偏っていた。


(よく見たら周りのお客さん、うちの生徒も含めてほとんど女子だな。男子もいるにはいるけど彼女と来てる奴ばっかっぽいし。ここの客層って女の人が多いのか……)


 どおりで甘味のラインナップが強いはずだ。


 まあ女の人でも甘いものはあまり飲まないという人もいるかもしれないけど、多分ここまで偏ったのは売れ筋を見てのことなのだろう。実際に見渡してみて、テーブルの上にコーヒーカップがあるお客さんはごく僅かだ。


「へえ、デザートも結構いっぱいあるんだな。パフェにケーキ、手作りドーナツも。どれも美味そう」


「晴翔、案外甘いもの好きだもんな。舌もお子ちゃま気味だし」


「お前にだけは言われたくない」


「いや、でも晴翔コーヒー飲めないじゃん。私は飲めるもん」


「牛乳で薄めたら、だろ?」


「「……ぷはっ」」


 少し意地を張り合ってみたものの、結局はお互いにお子ちゃますぎて思わず同時に笑みが漏れた。


 かっこつけてアメリカンでも頼んでやろうかと思ったが、やめておこう。コイツには既に飲めないことがバレてるわけだからむしろ逆効果だ。無理しているとバレた状態でコーヒーを啜ることほどダサい行為もそう無い。


「葵のオススメ、教えてくれよ。事前にリサーチ済みだろ?」


「おま、それ擦り続けるつもりか!?」


「はは、ごめんて」


「ったく……」



 相変わらず、コイツといると居心地が良いな。

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