第50話 こもれび
50話 こもれび
葵に言われるがまま、ベンチを離れる。
クラス遊びはあくまで任意での参加だ。よくよく考えればさっきのドッヂボールも何人かいなかった気がするし。多分食後だからと最初は不参加にした者や、はじめからシンプルに運動に対するモチベーションが無くてサボっている奴もいたのだろう。
(ま、葵が突然いなくなるってのはそれらとは目立ち方が違い過ぎる気がするけど……)
「ほら晴翔、こっちだこっち。もうちょっとだぞー」
「へいへい」
ぎゅっ、と強く握られた左手から引っ張られ、しばらく。芝生広場からバーベキュー場に戻り、更にその少し先。そこにはコテージのようなものがあった。
木製で少し古めの外壁だ。「こもれび」と看板に名前の書いてあるそこには、自販機が数台。中を少し覗いてみるとカフェのようになっている。俺たちと同じ一年生の生徒も何人かいた。
「なんだここ。カフェ……?」
「カフェというか、休憩所というか。バスで来た時はここを通らなかったからあんまり人は来てないけど、やっぱり何人かはいるか。まあ調べたら簡単に出てくるしな」
「葵も調べたのか?」
「ま、まあ……な。晴翔と来れたらいいな、って」
かぁっ。葵の耳がほんのりと赤く染まる。
こんな所にこんな店があるとは全く知らなかった。明日の自由時間はこのバーベキュー場からバスで少し移動した先で行われるわけだし。当然その先に何があるのかとかは調べてたが、ここでは完全にスケジュールにそって動くつもりでいたからな。完全にノーマークだった。
中にいる奴らはやっぱり、サボりに来ているのだろうか。今の俺たちに周りの奴らをあまりどうこう言う筋合いは無いが。クラスの親睦を深めるという名目で組まれたクラス遊びの時間な訳だから、ずっとここにいることを先生に見つかったら怒られそうだな。
「と、とりあえず入ろ。中なら空調効いてて外より涼しいだろうし」
「そうだな。せっかく葵が俺と来たいって調べてくれた店だし、入らないわけにはいかないか」
「ちょっ!? う、うううるさいな! なんかその言い方だと私が一人で盛り上がりまくってた見たいだろ!!」
「違うのか?」
「……ち、違くはない、けど」
「素直でよろしい」
純粋に嬉しかった。
分かってはいたことだ。葵がこの校外学習を楽しみにしていたことくらい。こんな言い方は少し自意識過剰かもしれないけれど、俺と一緒に何かをする時間を求めてくれていたことも、ちゃんと分かってる。
だから、俺からはーーーー
「行くか。あんまり時間も無いだろうし」
「う、うん」
ポカポカと暖かい葵の手のひらを、ぎゅっ、と握る。
葵が俺と行くために調べてくれていたカフェ、か。一体どんな所なのだろう。なにか甘いものが食べたいな。甘味があればこの疲れもよく癒せそうだ。
俺が手に込める力を強くした瞬間、葵はボッと茹蛸のように顔を赤くしたが、気づかないふりをして。扉を引く。
空調による涼しい風が皮膚に当たり、途端に身体が微かに冷えたが……この身体の熱を冷ましきるには、この程度ではまだまだ足りなさそうだ。
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