第49話 ドッヂボール2
49話 ドッヂボール2
「えっとその……なんかごめんな?」
「き、きききき気にすんなっ。ちょ、ちょっと死んだじいちゃんが手を振ってるところが見えただけだから……」
ズルズルとコート外へ引っ張られた先でしばらく悶絶したのち、大和は戦闘不能状態となって瀕死状態だ。
ちなみに葵はその直後不意を突かれて討伐された。なので今は大和の看病係兼外野である。
一応ドッヂボールのルール上は外野から再び誰かを当てれば戻っては来れるのだが。今回のこれは試合が始まる前に行った一人以外はアウトになったらそこで終わりの特別ルール。結果的に一人の男の犠牲によってチームメイト一同は命拾いする結果となった。
「晴翔ー! 頑張れよーっ!!」
が、がんばれと言われましても。自慢じゃないが俺は運動音痴なんだぞ。中月ほどではないものの、葵のように積極的にボールを当てに行けるような身体能力はしていない。
「よ、よしっ。みんなやっちゃえ! 葵がいなくなったら戦力九割減でしょ!!」
「「「「おおッ!!」」」」
あ、ヤバい。完全に風向きが変わった。
俺たちのチームは言わば葵のワンマン体制。誰がどれくらい強いのか定かではないものの、少なくとも勢いづき始めた相手チームには完全に気迫で負けてしまっている。
(これ、さてはさっきと真逆なことが始まるんじゃ……)
葵が六人も当てて広げた差は、俺の悪い予想の的中と共に簡単に縮まっていく。
「うごっ」
「あべっ」
「おうっ」
みるみるうちに仲間が減っていくその光景はまさに絶望そのもの。葵の抜けた穴を埋められる存在など、当然いるはずもなくーーーー
◇◆◇◆
「ったく、情けねえなあ。結局負けちまったじゃんかよお」
「……面目ない」
結論から言おう、惨敗である。
俺も結構粘りはしたものの、終盤で当てられてリタイアした。ここでかっこよく活躍して良いところを見せられるのは漫画の中の主人公だけ。現実なんてこんなもんだ。
「まあ簡単に当てられちまった私がとやかく言える立場じゃないんだけどなあ。一人くらい当ててほしかったってのが本音だけど」
「俺が球技あんまり得意じゃないの知ってるだろ。あれだ、俺は頭脳担当なんだよ」
「……晴翔ってそんなに頭良かったっけ?」
「やめろ。その正論パンチはボディーブローのようにジワジワと効いてくる」
それにしても疲れた。やっぱり運動なんてもんは食後にするもんじゃないな。てかまだ三十分も経ってないのかよ。やっぱりスケジュールバグってね?
なんて、そんなことを考えながらベンチでだれていると。クラスの奴らが次はサッカーボールを手に遊び始めた。元気すぎかよ。
「俺一旦休憩でいいや。葵は勿論サッカーしてくるだろ?」
「え? うーん……晴翔が行かないなら私もいいや」
「なんでだよ。気遣わなくてもいいのに」
見たところ葵はまだまだ元気だ。ちょっとした運動でバテ始めてる俺とは違うだろうに。
「別に、そういうんじゃねえよ。サッカーはあんま得意じゃないから別にいいかなってだけ」
「……ふうん」
まあ、葵がそれでいいなら別にいいけども。
(にしても……今日は結構暑いな。服、もうちょい薄着にすれば良かったか)
まだ初夏にも入っていない春真っ只中。薄長袖でいいだろうと思っていたのだが、運動するとそれなりに汗もかく。袖を捲ったはいいものの、それでもまだ少し暑いくらいだった。
「なあ晴翔」
「ん〜?」
「暑くね?」
「暑いなあ」
「涼しいところ、行きたくね?」
「行きたいなあ。あるならだけど」
「じゃ、あったらついて来てくれるか?」
「そりゃ勿論。……ってお前、まさかここにいるのってそれが目的か?」
「へへっ。あったりい」
どおりで。なにかここに一緒に残る訳があるんだろうとは思っていたけど、そういうことか。
「二人で……ちょっとだけ抜け出そうぜ」
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