第48話 ドッヂボール
48話 ドッヂボール
「へっ。晴翔は私が守ってやんよ! そんでぜってえ勝つぞ!!」
「お、おお?」
バーベキューが終わり、腹がパンパンなのにも関わらず、全員参加のクラス遊びが始まった。
このスケジュール組んだ奴どう考えても人の心無いだろ。昼飯食わせた直後にドッヂボールとか正気の沙汰じゃない。しかもここから三時間もぶっ続けて。全部ドッヂじゃないとはいえ過密スケジュール過ぎるぞやっぱり。
芝の上に角の目印となるマーカーを置き、二分化したクラスメイト達が各々簡易コートへと入っていく。
ちなみに葵は同じチーム、大和と中月は相手チームだ。
正直葵が味方な時点で負ける気はしないが……大和が敵というのは少々怖い。絶対アイツボール持ったら俺狙ってくるし。
「大和アンタ、私のことちゃんと守ってよね。ボール当てられるとかマジ嫌だから」
「はあ!? 自分の身ぐらい自分で守れや!!」
「……あれ見てもそんなこと言えるわけ?」
先生の合図で、俺たちボールから試合が始まる。
一番最初にボールを持ったのは葵。そして一瞬で投げる方向を男子連中が固まっている場所へ固定すると、大きくふりかぶってーーーー
「ドラァッッ!!」
一閃。
その気迫を体現するかのように目にも止まらぬ速度で空を切り裂いたボールは、一直線の軌道で男子二人をダブルアウトへ追い込む。
その瞬間、このドッヂボールにおける序列は一瞬にして決定したのだった。
「私が当たったら死ぬでしょ、あれ。比喩抜きで」
「はは、奇遇だな。多分あれは俺でも死ぬ」
葵は運動神経抜群だ。元バスケ部で現在もなお引き締まったその身体から放たれるその一撃はまさに凶器。みるみるうちに敵が減っていくと、やがて敵の戦意そのものが消え、闘争心は恐怖心へと塗り替えられる。
「おい葵、ちょっと手加減してやったらどうだ? これもはやリンチだぞ」
「あ〜ん? ったく、みんな軟弱すぎんだよ。ちょっとは骨のある奴……あっ♡」
「ひいっ!? 待て! 待て待て待て!! なんでこっちを向く!?」
「赤松ってえ、結構動けたよな?」
「い、一旦落ち着け。話をしよう! そうだ、こういう時は!!」
「ちょ、はあっ!? なんで私を前にすんの!? 大和! 男なら私のことちゃんと守ってよ!!」
「あれは違う、流石に無理だって! 普通の奴相手ならいいけどあの猛獣相手はマジで無理! ワンチャンお前相手なら手加減してくれるって可能性に賭けるしかない!!」
「ざっけんなあああああ!!!」
わあ、地獄絵図。
ほんと、コイツが味方でよかった。俺も二分の一でああなっていたと思うとゾッとするな。
「赤松か夜瑠か……どっちにするか悩ましいなあ」
「わ、わわ私と葵は親友でしょ!? ここは関係知的に薄い大和から始末すべきじゃない!?」
「始末!? い、いいのかよ白坂! 俺にはバスの座席を譲ったっていう多大なる恩があるだるお!? ここは手軽に当てれるこのクソギャルをだなーーーー」
「うっし! 面倒臭いから全力投球だ!!」
「「うぎゃああああッッ!?!?」」
ひゅんっ。考えるのをやめた葵から放たれたボールは中月を捉えたーーーーかのように見えたが。
「かひゅっ……」
すんでのところで身を捩った中月の腰を掠め、無慈悲にもボールは大和へ。ーーーー大和の大和へと、炸裂したのだった。
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