第45話 お尻とラブコメと映画鑑賞と4

45話 お尻とラブコメと映画鑑賞と4



「え……?」


 それは、葵の心の底にある願望が漏れ出たかのような言葉。突然のそれに驚いてしまった俺は、思わず変な声を上げて硬まってしまう。


 こんな恋愛。葵がそう言ってついさっきまで俺と見ていたのはアオハル恋愛映画だ。こういうのを見たいと言う時点で葵の中には少なからずそういった乙女感情があることは分かっていたものの、まさかそれを俺の横で吐露するとは。


「人生で唯一告白してきた奴は、お尻が好きとか言う変態野郎だったしなぁ」


「う゛っ。だ、誰のことでしょうね」


 それを言われると耳が痛い。


 俺だって最低な告白だった自覚はあるさ。緊張のあまり心の中の欲望を全部曝け出した結果があれだ。正直反論こそするものの、変態だと言われても仕方ないと思う部分もある。


 本当に申し訳ないことをした。葵がこんなに乙女的な恋愛をしたいと思っていたなら尚更だ。


 でも、だからこそ……


「ま、別にいいけど。その誰かさんは私のことちゃんと全部好きになってからもう一回告白し直してくれるみたいだし? それまで待ってるよ」


「……おぅ」


 確信に次ぐ確信。もう何度目かも分からない、俺に向けられた分かりやすい好意。その好意の正体が何なのか、それをこれっぽっちも感じれないようでは鈍感が過ぎるだろう。


 大丈夫だ。そんなに待たせるつもりは無いから。あと少しだけ、待っててくれ……。


「っと……オイ晴翔、見ろよ外! いつの間にか周り大自然になってるぞ!!」


「ぅえ? あ、ほんとだ」


 そういえばこの映画を見始める前、見終わる頃にはちょうど目的地に着く頃だって話をしてたっけ。


 バスの窓から外を見ると、俺たちを乗せて今走っているところは完全に山の中。周りを見渡しても木々が生えているだけで民家の一つも見つからない。ただひたすらに自然の中を進んでいる。


「楽しみだな、バーベキュー。バスの座席くじでは全然違う所引いたけどよ、そっちの班は一緒だもん。楽しみすぎてお腹もペコペコだぜ〜」


 バーベキューは八班構成。結局バス座席を決める時のように中月が手を回し、俺たち四人で班を構成できるよう結果を調節した。クラスメイトとくじを交換し人員を入れ替えていく作業を先生に一つも気取られる事なく行ってしまえるその手際はもはや職人の技である。


 ちなみに補足しておくと、俺と葵は元々同じ班のくじを引いていた。だからその時点で沸き立っていた葵はその後中月が俺のくじ番号を見て自分と、ついでに大和もおまけで勝手に同じ班に仕立て上げた。


 本人は「ぼっち陰キャ君へのせめてもの優しさ」だとか言っていたが、実はあっちはあっちで同じ班になりたくて、その隠れ蓑に俺たちを使っただけだったりしてな。本心は中月のみぞ知るところだ。


「はぁ〜い。みんな、前の座席から順にバスを降りていってくださ〜い。一度全クラス集めてキャンプ場の人からの説明とか聞く時間があるので迅速にね〜」


「説明時間、か。それさえ終わればすぐバーベキューできんかな?」


「どうだろうな。火を使う事だし始まるまでに結構時間かかるかも」


「まぁじか。もう少しだって待てねえよぉ。さっきからお腹鳴りそうなの必死で我慢してんだぜ?」


「ならお菓子食べとけよ。そのために用意してたんじゃないのか?」


「……そんなことしたら肝心の肉を食べられなくなるかもしれないだろ」


「あ、そう」




 意外とそういうところ気にするよな、お前。

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