第46話 お尻で上塗りする憂鬱

46話 お尻で上塗りする憂鬱



「皆さん初めまして。私は当キャンプ場の管理を務めさせていただいている桑田と申します。これからバーベキューをしてもらうにあたって、火気類の取り扱いについて説明させていただきますので────」


 全クラスが整列して静まり返る中。桑田さんと名乗る中年の男の人によって説明が始まっていく。


 予想してはいたことだが、やはり火器類を使うとなると使い方の説明も丁寧で長い。大切なことなので当然だしちゃんと聞いてなきゃいけないとは分かっていても、空腹が襲ってくることもあってやはりこの時間は憂鬱だ。


(葵のお尻が無かったら、だけどな)


 しかし俺にとってはノープロブレム。何故なら目の前に葵のお尻がいてくれるからだ。


 しゃがみながらも土の地面にお尻は付けず、少しその体勢が苦しいのかずっとぷるぷるしていて。後ろに位置してしっかりと体育座りをしている俺からすればもうごちそうさまシチュ以外の何者でもない。


(へへ、ついお尻と地面の間に手を挟んで支えてあげたくなるぜ。多分それやったら俺の命無くなると思うから絶対やんないけど)


 完全に座っている状態での柔らかく変形して若干平べったくなったお尻も当然良いのだが、中々どうしてこの体勢となるとハッキリした丸みと存在感が俺の理性をダブルパンチしてくる。俺が紳士でなければ今頃どうなっていたか分からないぞ。


「……」


「ぃでっ!? いでででで!!」


「お尻凝視すんな。バレてるって言ってんだろ」


 の、ノールック鼻つまみだと!? コイツお尻に目でも付いてるみたいに正確な攻撃をしてきやがった! ってオイやめろ!? 鼻を横にねじ曲げようとすんな!?


 最近可愛いところばかり見せられて忘れていたが、コイツパワーはゴリラ並みなんだった。俺がヒョロい方なのはあるとしてもとにかく力が強すぎる。本気でやられたら全く太刀打ちできる気がしない。


「あはは、相変わらず仲良いねあの二人。にしても……ほんと晴翔は分かりやすいなぁ。どんだけ葵のお尻好きなのさ」


「全くだ。アイツのド変態さは擁護しきれんところがあるからなぁ」


「……アンタがそれ言う?」


「オイ待てどういう意味だそれ」


 ってあれ、なんか向こうで騒がしい奴らがいるな。あれは……大和と中月か?


「いやぁ、ねえ。葵みたいな女の子の大きいおっぱいガン見してばっかりのアンタも大概でしょうよ」


「失礼な。確かに俺はおっぱいが好きだ。そこに関してもう否定はしない。けどな、大きい小さいなんてそんな尺度で俺が胸を品定めしていると思われるのはあまりに侵害だぞ」


「ほほう? じゃあ私の胸は全然見ないのに葵の胸には視線が引き寄せられてる件についてはどう言い逃れするつもり?」


「……それはあれだよ。俺の好みどうこうの話じゃなく、単にメロンと野球ボールが横に並んでたらどっちに目が行くかという話であってーーーー」


「お? 誰の胸が野球ボールだって? ぶち◯すよ??」


「ちょっと中月さん、うるさいですよ。ちゃんと静かに聞いててください」


 あ、先生に怒られてる。中月はかなり不満そうだけど。ああ言われたら黙らざるを得ないよなぁ。それを見ていい気味だと笑っている大和は悪人そのものだな。


「あと白坂さん達も。もう少しで終わりますから、静かにしててくださいね」


「っ……はい」


「怒られてやんの」


「……」


「あ、はい。すんませんでした」




 ダメだ。あっちと違ってこっちは色々と怖すぎる。

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