第44話 お尻とラブコメと映画鑑賞と3
44話 お尻とラブコメと映画鑑賞と3
『夏美……俺はお前のことが好きだ! ずっとずっと前から大好きだった! 俺と付き合ってくれ!!』
『っ……なら早くそう言いなさいよ。バカ……』
ドドンッ、と特大の打ち上げ花火が上がると、それを背景に涙を浮かべたヒロイン────夏美が主人公である青羽にキスをする。
一夏の様々な出来事を乗り越え、胸の内を明かしながら主人公が告白したラストシーン。キスの後夏美も昔から同じ気持ちを秘めていたことを語り、初々しくも付き合い始めた二人を背に物語は終幕。エンドロールが流れていく。
(普通に面白かったな……)
率直な感想だった。二人の幼なじみという関係性と、逆に近しい距離感にい続けたことでもう一歩関係性を縮めることに対する躊躇をよく表現できていたと思う。ヒロインが可愛いだけの駄作だと評価されずにそれなりのヒットを収めたのにはしっかりと理由があったということだ。
「っ……っはぁ……」
「? どうしたんだよ葵。なんか息上がってないか?」
「い、いや……正直甘すぎて胸焼けしてるというか。キュンッ、て。甘すぎる恋愛を見てたらドキドキが止まらなくなっちまってよ……」
胸焼け、か。まあ甘すぎたというのには同意見だな。
何より衝撃だったのはヒロインの子が昔は内気な性格だったということだ。ただとあるタイミングで主人公への好きを自覚し、逆にそこからはどう接したらいいのかが分からなくなって冷たく当たったりツンツンした態度を取ってしまう。しかもそれが原因ですれ違いまで起こったというのに……。最後には主人公が勇気を出して気持ちを伝えたおかげでその恐怖心から来る態度が消え、キスという形で好きを交換し合うというなんともアオハル全開な展開だった。胸焼けしてしまうのも無理はない。
「めっちゃくちゃよかった。夏美ちゃん可愛すぎるよぉ……」
「だなぁ。演技も神がかってたし。途中ちょっとこのままじゃヤバいんじゃないかってヒヤヒヤもあったんだけどな。最後の告白シーンの甘々でそんなのも全部持ってかれたわ」
「な! な〜っ!! ああ、やっぱり見てよかった。サブスクに追加されるまで我慢強く待った甲斐があったってもんだ……」
それにしても、だ。改めて再確認させられたことなのだが、やっぱりコイツの好きな作品ってめちゃくちゃ女の子なんだよな。
ベタなアオハル系の恋愛物語。どれもこれもハッピーエンドで終わる作品ばかりで、泣かされるというよりは乙女心をくすぐられて恋愛をしたくなる感じの。俺はこういう作品をあまり見ることはないけれど、やっぱりたまに見るとこう……グッと来るものがある。葵同様、頭の中は今「見てよかった」という気持ちと余韻でいっぱいだ。
「へへ……やっぱりこういうベタで王道な展開、大好きだわ。こういうのでいいんだよって思わせてくれるこの感じ。これを余韻として感じるのが醍醐味なんだよなぁ」
すげぇ分かる。分かるようになった。最高だ、アオハル恋愛。
「……」
じぃん、と未だに続く余韻に支配される中。そんな俺の横顔に視線が突き刺さる。
当然それは葵のもの。さっきまで浮かべていたイタズラな笑みや恥ずかしがる表情とは違う。
明るいが……静かな視線。
「私にもこんな恋愛、できるかな」
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