第43話 お尻とラブコメと映画鑑賞と2

43話 お尻とラブコメと映画鑑賞と2



(クッソ……集中できねぇ……)


 物語はまだまだ序盤。主人公、ヒロイン、そして周りの登場人物達の名前や通っている高校の名前などが明らかになり、少しずつ展開が広がっていく。


 しかし。この見逃すと没入感を無くしてしまう重要な部分を見るための余裕は、既に俺からは失われていた。


 包み隠さず端的に言うなら────ムラムラしてる。


「へぇ〜。やっぱり可愛いなこの子。な、晴翔?」


「お、おぉ。そうだな」


(お尻……お尻! お尻? お尻!!)


 恋焦がれ続けたお尻は俺の理性を焼き切り、煩悩を注入して頭の中をそれ一色に染め上げていく。


 ダメだ、他のことは何も考えられねぇ。右太ももに全神経を集中させて葵のお尻を感じるのに必死で映画の内容が全く入ってこない。


 やはりこのままではまずい。いや、まずいことはない……のか? いややっぱりダメだろ、これは!


 なんとかして離れさせないと。普通のボディタッチですら思うところがあるというのにお尻まで押し当てられては本気で色々ともたない。あまり幼なじみの横でこんなことを考えたくはないが……″アレ”が元気になってしまいそうだ。


「な、なぁ。ちょっと暑くないか? くっつきすぎが原因かもしれないし一度離れ────」


「暑いなら上の空調そっち向けてやるよ。風、涼しいぞ」


「んぐ……」


 窓側に座る葵の頭上には向きを変えることで風に当たることができる小さなエアコンのようなものがある。


 それをこちらに向けられて微かに前髪が揺れ動くほどの風を感じると、暑いという言い訳は簡単に破綻してしまった。


「……なんだよ」


「い〜や? 必死で可愛いなぁ……って。まあ安心しろよ」


 ニヤニヤとイタズラな笑顔を浮かべながら。葵はにぎにぎしていた俺の手を一度強く握りしめると、言う。


「絶対に離れてやんねぇから。せっかく、お前がドキドキしてくれてるんだからな……。離れてなんてやるもんかよ」


「つっう!?」


「へっ。ほら、画面見ろって。お前がそうやってドギマギしてるのを眺めてるのもいいけどよ。一緒にこの映画を見て感想を言い合いたいって気持ちもほんとなんだぞ」


 コイツ、やっぱり俺のこと……そういう、ことだよな?


 離れるのが嫌だと言わんばかりに強く手を握って、身体も密着させて。なんともまあ幸せそうな顔をしやがる。


「はぁ……。ならお尻を当てるのはやめてくれ。正直そっちに神経が行きすぎて一ミリも映画の内容頭に入ってきてないから」


「へ? お尻……? って、てててめぇ晴翔!? おま、そんなこと思ってやが……っつ!! 変態! ド腐れお尻狂いが!!」


「は、はぁ!? お前が押しつけたからだろ!?」


「わ、わわわわ私はそんなつもりじゃ……私はただくっつきたかっただけだっつぅの!!」


 オイオイマジかよ。このお尻プレスは無意識だったのか。


 でも確かに、言われてみれば身体を隣同士で密着させた時にお尻の一部が触れるのは全然あり得ること……なのか。特に葵のようなまん丸で少し大きめなお尻なら────


「……お前今、絶対失礼なこと考えてたろ。考えてたろッッ!!」


「考えてない! 俺はそんなことこれっぽっちも!!」




 全く。あのレベルの破壊力を有した核爆弾を無意識に投下してきていたとは。恐ろしい奴だ……。

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