第17話 秘密の場所

17話 秘密の場所



「ここだ! ここでお前と昼ごはん食べたかったんだよ!」


「おおっ? なんだここ?」


「へへっ、夜瑠からいい場所があるって教えてもらってな。どうだ? いい場所だろ」


 葵が俺を連れてやって来たのは、正門から一番遠い裏校舎の横にある庭……の、向こう側。


 木々が風に揺らされ心地のいい音を立てるそこにはベンチが設置されており、周りに人はいない。

 

 そのうえ校舎側から見ると木々や緑のカーテンが邪魔をして俺たちの姿を隠していた。おかげで学校の中にいながらもどこかここは秘密の場所のような雰囲気があり、まさに二人きりになるのに最適な場所と言える気がする。


 こんな場所を知っているなんて流石は中月。人脈の広いアイツのことだから、きっと早速仲良くなった先輩か誰かにここの存在を聞いたのだろう。


「けどこんないい場所、他の人は来ないのか? というかもう先約がいてもおかしくなかった気がするけど」


「あ〜、そこは大丈夫だぞ。このベンチが置かれたの今年からで、なんなら昨日からだからな。特に公表されることもなく余ってるベンチを清掃員の人が設置したらしいんだけど、夜瑠だけがその話を仕入れたんだと。ちょっと手伝う機会があったらしくて、その時特別に教えてくれたらしい」


「な、なんだそれ。どんな偶然……というか中月すげえなオイ」


 清掃員の人を手伝う機会って一体なんなんだ? 普通そんな機会、中々訪れないと思うんだが。


 しかもそれを中月が、って。アイツまさかベンチ設置を自分で察知して確証得るために手伝ったりしたんじゃないだろうな。そんで上手く話を持ち出して設置することを聞き、なんなら他の人に言わないよう口止めまで……は、流石に考えすぎか?


 ただアイツならそれくらいのこと平気だしてしまいそうだから怖い。「ここは葵と晴翔専用席にしてもりったから好きに使ってね〜♪」とかサラッと言ってきてもおかしくないからな、マジで。


「ま、深く考えんなよ。いいじゃねえか……これで私たち、二人っきりでお弁当食べれるんだから」


「そ、そう……だな。うん。とりあえず考えないことにする」


「よしっ。じゃあお腹も減ったし食おうぜ。ほら、座れ座れっ」


「おう……」


 いち早く腰を下ろした葵は「隣に来い」と言わんばかりにベンチをぽんぽんっ、と叩き、俺を誘う。


 それに応えるよう隣に腰掛けると、葵から受け取っていたお弁当箱を太ももの上に乗せた。


 青色の巾着袋の結び目を解くと、中から二段のお弁当箱とお箸が出てくる。隣で同じようにピンク色の巾着袋を取り除いた葵も、同じような形のお弁当箱を使っているようだった。


「な、なんか緊張するな。その……あんまり笑わないでくれよ? 頑張って作ったんだけど、正直まだまだな出来でさ」


「気にしないぞ。葵が頑張って俺のために作ってくれたんだ。多少不格好だったところで笑ったりしない」


「そう、か? そう言ってもらえるとちょっと気が楽になるな……」


 そうだ。これは葵がわざわざ俺のために手作りしてくれたお弁当。見た目は置いておいて、仮に味が美味しくなかったとしても今の俺ならそんなところも可愛いと……そんなことを思ってしまいそうだ。


「じゃ、開けさせてもらうぞ」


「……ん」




 気づけば頭の中から不安は取れ、期待感だけが溢れ出ていた。

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