第18話 幼なじみの温もり

18話 幼なじみの温もり



 パカッ。お弁当箱の本体と蓋の間で微かにそんな音が鳴り、中身が顔を出す。


「おぉ……っ!」


 一段目には卵焼き、プチトマト、ブロッコリー、唐揚げにきんぴらごぼう。二段目には白ごはんだ。


 一目見た感想は純粋に「凄い」だった。多少見た目が悪かったりしても……なんて思っていた自分が恥ずかしくなるほどの出来。これを作ったのが葵ではなく葵のお母さんだと言われてももはや違和感は無い。


「すげぇ美味そう! これ、マジで葵が作ったのか!?」


「へっ!? お、おう! 一応、できるだけお母さんの手も借りずに頑張ったんだ……。あ、味付けも多分大丈夫だと……思う」


「じゃ、いただくとしましょうかね。いやぁ、まさか葵からお弁当を作ってもらえる日が来るなんて、思っても見なかったなぁ……」


 隣でどこか気恥ずかしそうに自分の分のお弁当箱を開ける葵を横目に。割り箸を割ってお弁当箱の蓋を隣に置いてから両手を合わせる。


「いただきます」


「お、おぅ……」


 さて、何から食べようか。


 前菜的な言い方であればプチトマトやブロッコリーからな気がするが。俺はそれよりもまず″これ″が気になるな。


「卵焼きから、っと」


 卵焼きというのは、良くも悪くも作り手の個性が強く反映される。


 まずだし、醤油、砂糖など味付けの種類も豊富だし、卵の最終的な焼き加減がとろとろの半焼けが好きな人もいれば、ガチガチに少し焼き目が付くまで、という人も。卵の間にカニカマやハムなんかを挟む人もいるし、やっぱり卵焼きという一つの料理の中には無限にレシピがあるように思える。


 そんな中、葵はどんな卵焼きを作り上げたのだろう。初めて食べさせてもらうお弁当で一番最初に選ぶ口に運ぶものとしては、これが最善な気がした。


 二つある卵焼きのうちの一つをお箸で挟む。挟んでみた感じ、若干質感は固めだろうか。俺は半熟みたいな卵よりも、こういうちゃんと中まで火を通してくれているやつの方が好きだ。


 明らかに隣で葵が俺に熱い視線を向けているのをひしひしと肌で感じながら、一口。さして大きなサイズでもなかったので、一個を全て口の中に入れて咀嚼する。


「ん゛っ……!」


「ど、どうした晴翔!? ま、まさか美味しくなかったか!? む、無理はしないでくれ!! 不味かったら遠慮なく吐き出して────」


「んぅまぁっ! これ、めちゃくちゃ美味い!!」


 一口噛んだ瞬間口の中に広がったのは、若干の塩味と醤油の風味。


 どうやら撫でるのを葵は塩と醤油で味付けしたらしい。俺はこういう卵料理を食べる時基本的に塩胡椒派なのだが、それを根本から覆されそうなほどに美味かった。


「ほ、他のも食べていいか!? 俺こんな美味い弁当久しぶりだ!!」


「本当、か? へへ……ならよかったよ……」


 母さんのお弁当を悪く言うわけじゃない。俺の好みを分かっている母さんのお弁当はやっぱり美味しかったし、ただでさえ普段はパンで済ませるのがほとんどな俺にとってたまのお弁当は楽しみの一つでもあった。


 けど、葵のお弁当はまた別種の美味しさで。経験したことのない温もりというか……暖かい心が篭っているように思えた。


 きっとこれを作るのは大変だったろう。料理をしたことのない初心者がここまでのものを仕上げようと思ったら練習も必要だったはずだ。


「ま、まさかそんなに喜んでもらえるとは思ってなかった。美味しいって言ってくれるのは嬉しいけど落ち着いて食えよ? 誰も取ったりしないんだからさ」


「ふもも! ふももふも!!」




 ああ。俺、葵の幼なじみでよかった……。

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