第15話 手作り弁当
15話 手作り弁当
「は、晴翔ッ! お弁当……作って来たんだ。一緒に食べねえか……?」
「……へっ?」
四限終わりの昼休み。大和と高校生活初めての食堂にでも行こうかと話していたところに、後ろから肩をつつかれる。
振り向くと葵が顔を真っ赤にし、弁当箱を二つ持って立っていた。
(え? えっ……? 何それ、聞いてないんだが?)
いや待て、よく思い返せ。そういえば昨日……
『なあ晴翔、お前高校の昼飯はどうするんだ? 中学の時は毎日パンとか食堂だったけど』
『ん? あ〜、そうだな。まあ高校も同じかな。それがどうかしたのか?』
『い、いやぁ? なんでもねえよ』
(あれかぁ……)
思い当たる節のある会話をしていた。
あれ、あの時はただの何気ない会話だと聞き流していたが、よくよく考えたら「じゃあ私がお弁当作ってやる!」って言い出してもおかしくないシチュエーションだ。
いやまあ、正直作るなら作るでちゃんと言って欲しかったけど。ぶっちゃけそれ以上に葵の手作り弁当にはかなり興味を唆られる。
コイツが料理をしているところを見たことがないが、一体どんな仕上がりになっているのだろうか。期待七割不安三割だ。葵のお母さんはかなりの料理上手だったし、頼っていたのだとしたら相当なものになっているかもしれない。見た所ベタな指の切り傷とかも無いみたいだし、味付けの間違いなんかが無ければそう酷いことにはなっていないはずだ。
「へっ、じゃあ俺は一人飯と洒落込みますかね。お幸せに〜」
「あ、ちょっ────」
颯爽と大和が姿を消す。
アイツ、相変わらずこういう時の退散速度は一流というか……空気を読む速度が異常だ。俺に気を遣って一瞬で姿を消しやがった。
「晴翔……? が、頑張って作ったんだ。お前に食べて欲しくて……」
「ん゛んっ。あ、ありがとう葵。じゃあせっかくだから頂こうかな」
「ほんと!? や、やった。へへ……」
ああもう! そんでコイツは可愛いな!?
やっぱり朝に感じた違和感は気のせいじゃなかった。明らかに今、葵は女の子としての魅力を全面に出し始めている。そしてまた、俺はそんなコイツのことが可愛く見えて仕方がない。
昨日あんな宣言をしたばかりだというのに。これではすぐにコイツのことが″幼なじみ″として見れなくなってしまいそうだ。
というか、一刻も早くそうさせようとしている……なんて事はないよな? いくらなんでも。
「ど、どこで食べる? 教室でってのはやっぱりちょっと恥ずかしいだろ?」
「それならいい場所見つけてあるんだ。二人っきりになれる所、な」
「二人っ……きり……」
「おうっ」
なんだろう。葵と二人きりになるなんて今まで当たり前のことだったのに。むしろどんな友達よりも……それこそ大和よりも放課後は二人きりになることが多かった間柄だ。こんな言葉、今更なはずなのに。
胸が高鳴る。″二人きり″という言葉に高揚している自分がいる。
(全く。厄介だな……)
それもこれも、全部葵が可愛く見え始めたせいだ。
この感情を否定する必要はないなろうが……それでもこれまで十年以上もただの友達だった相手を、昨日のあの宣言の後からこんな簡単に女の子として見られるようになるなんて。自分のチョロさが恥ずかしい。
「じゃあ早く行こうぜ! なっ、晴翔!!」
「……おぅ」
ざわつく感情を抑えながら。俺は葵に手を引かれ、教室を出たのだった。
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