第14話 熱々な二人は
14話 熱々な二人は
ざわざわ。ざわざわざわ。
「なー、朝の見た?」
「見た見た。あの二人付き合ってんのかな?」
「付き合ってるだろー。あーあ、俺白坂さんワンチャン狙おうと思ってたのに」
「いやお前には無理だって。高嶺の花すぎる」
「それはまあ……な」
四方八方から飛び交う噂話。よく漫画なんかでくしゃみをした時に「誰かが自分の噂話をしている」なんて表現をするけれど、今それをするなら俺と葵はくしゃみが連発して喉がガラッガラになっても止まらないだろう。
クラス分け二日目の朝にて一眼女子がクラスメイトの男と手を繋いで登校してきた。そのインパクトはどうやら凄まじかったらしく、すぐに広まった。流石に学校の中ではまずいと思い通学路の途中で手繋ぎはやめたのだが、既に誰かに見られていたらしい。
「ね〜ね〜葵〜今朝は晴翔と随分と熱々だったそうじゃないか〜! 二人は付き合ってるのかにゃ〜?」
「くんぬふぎゅぅうぅ……っ!」
あーあー、まあものの見事に葵が中月のおもちゃにされてら。
涙目でぷるぷると小さく身体を震わせながら俯くその様からとれるのは、まさに後悔の念そのもの。だから言ったのに。誤解されるぞって。
「おい晴翔、お前一体たったの一日で何があった? あの告白から大逆転できるとは到底思えないんだが……」
「酷い言い草だな。まああれだ、仲直りしたんだよ。別に付き合ってはないし、元の幼なじみに戻っただけだ」
「ほ〜う?」
「な、なんだよ」
「ただの幼なじみが手繋ぎ登校……ねぇ」
やっぱり言い訳としては苦しいだろうか。
けど仕方ないじゃないか。俺から言えることはそれくらいしかない。実のところ幼なじみ以上にも以下にもなっていないのだから。……ちょっと明らかに今までよりお互い″意識″し始めてるってだけで。
まあ正直なところ俺もこの言い訳がそう簡単に通るとは思えない。大和と中月にはあとでちゃんとあったことを話すつもりだ。
その旨を伝えると大和は、ひとまず安心したといった表情でおめでとうをくれた。
中月は相変わらずで、涙目の葵をツンツンしたりいじったりとやりたい放題。もうやめてやれよと思う反面、葵のああやって弱っている姿は結構新鮮なのでまだ見ていたい気もする。
が、その時間は長くは続かず。一限の始まりを告げるチャイムと共に各々が自分の席に戻ると声は止んだ。
「ふふっ、よかったね。晴翔」
「あ、あぁ。助かったよ中月。おかげで葵とはちゃんと仲直りできた」
「いいってことよ〜♪ あ、でも感謝の気持ちはちゃんと報酬で……ね? ジュース期待してま〜すっ」
「はいはい。昼休みになったらな」
全く、とんだ悪目立ちをしてしまった。なんか葵を狙っていたという男子の声も聞こえたし、厄介なことに巻き込まれないといいのだが。
まあ……別に俺と葵は付き合っていないし、そう言えばなんとかなるか。信じてもらえるかはだいぶ怪しいけれど。
「それではこれより一限、数学Aを始めます。教科書を────」
俺と葵は幼なじみという関係性も中月と大和以外には知られていないし、今はこのままでいい。
本当に付き合うまでは、あくまでただ仲の良い友達で。葵も今朝のことで懲りただろうし、少なくとも学校ではあまり目立つような行動はとってこないだろうと。
そう、思っていたのだが────
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