第7話 仲直りのために

7話 仲直りのために



 入学式を終えて初めて自分のクラスに足を踏み入れることとなったその日は、全体的にレクリエーションというような雰囲気が強かった。


 挨拶、自己紹介、これからの学校行事などの軽い説明等々。淡々とした説明が担任の相浦先生から行われると、三限で放課後を迎えることとなった。


 時刻としてはまだ午前十一時半。正午すら回っていない。


「じゃあな晴翔。ちゃんと頑張って仲直りするんだぞ〜」


「ちょ、おまっ!? 早い、早いって別れるのが! 寸前までいてくれよぉ!!」


「いや〜、俺もそうしたいんだけどなぁ。なんか中月の奴から珍しく奢るから飯行こうって言われてよ。ま、そーいうわけだから!」


「ぐぬおぉ……っ!」


 中月め。確かに俺と葵が二人きりで帰れるようセッティングするとは言っていたが、まさか人払いまでするとは。親友の葵のためとはいえなんという気合の入りようだ。


 となくこれで俺は逃げることができなくなった。もしかしたら中月は俺が逃げたり誰かに頼ったりしそうなのを察して頼るのであれば間違いなく一番最初に声をかける大和を遠ざけたのかもしれないな。


「……」


「あっ……」


 前方から。ゆっくりと振り向き、こちらを見つめる視線が一つ。


 不機嫌そうな。怒っているような。そんな目。それはとても幼なじみに向けるようなものではなく、もはや変態を蔑む軽蔑の目に等しい。


 あんな告白をしたのだから当然か、と思いつつも。やっぱり少しショックだ。


 だがめげるわけにはいかない。ここで関係が切れてしまってもいいと思えるような相手なら告白なんてしていないのだ。


 もう恋人になることは無理だったとしても。せめて、幼なじみとしてこれからも隣に居続けられるように。ここは頑張りどころだろう。


「お、おす。葵……」


「なんだよド変態」


「ドっ……ん゛んっ。い、一緒に帰らない、か? 今日おばさん仕事の日だろ。たまには何か食べて帰るのもいいんじゃないかと思って……」


「ふぅん。ま、昨日の今日でそうやって私を誘えるその度胸だけは認めてやる。行くかは別だけどな」


 やっぱり葵の態度は冷たい。


 口調が悪いのはいつものことながら、俺の前で毎日のように見せてくれていた″笑顔″がそこには無い。


 無謀、だっただろうか。中月に頼んでなんとか二人きりで誘える状況は作れたものの、結局は葵が俺の誘いに乗ってくれなければ何も意味がない。これだけ怒っている相手を飯にというのは出過ぎていたか。せめてただ一緒に帰って、その帰り道でなんとか謝る……とか。ああ、クソ。しんどいな。あのたった一回の告白のせいでここまで複雑になってしまうのか。


 調子に乗っていたと言わざるを得ない。葵なら。幼なじみとしてずっと隣にいてくれたコイツなら俺のことを何でも受け止めてくれるんじゃないかと、驕っていたんだ。むしろ全てを曝け出さないと失礼なんじゃないかって。


 その結果がこれだ。ギクシャクして、気まずくなって。俺が全てを曝け出したせいで嫌われた。もはやこのままではただの幼なじみに戻ることも────


「で? どこ行くんだよ」


「……え?」


「え、じゃないだろ。飯はどこにするんだって言ってんだ。もちろん晴翔の奢りなんだろ?」


「っ!! も、もちろん! 葵の好きなところに連れてくよ!!」


「そうか。じゃ、とっとと行くぞ。今日は朝ごはん食い損ねたから腹ペコペコなんだ」


 あ、あれ? てっきり来てくれないと思っていたんだが。なんか上手くいった……のか?


 葵は席を立つと鞄を右肩にかけ、俺を先導するように教室を出る。




 まだチャンスは残っている。そう、思っていいのだろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る