第3話 私が育てました
3話 私が育てました
「はあぁぁぁぁっ!? ちょ、はぁっ!? 断ったぁ!?!?」
「う゛ぅ、そうだよ。断っちゃったんだよぉ!!」
晴翔がいかにクズな告白をしたのか自覚させられているその裏で、もう一人。嘆いている者がいた。
「クッソ、だってまさかあんな告白してくるなんて思ってなかったし。普通の告白ならOKする気満々だったんだ私は。それなのにアイツは……ああもう、思い出したらまた腹立ってきた!!」
恋する乙女、白坂葵。晴翔が想い人に告白をして玉砕したのを悔しがったように、彼女もまた。″好きな人から″告白されたのに断ってしまったことを悔いていた。
なんとか受験勉強を頑張ったことで晴翔と同じ高校に入ることができ、しかも入学式の日にいきなりの告白。
好きな人と恋人になり、順風満帆な高校生活を送ることができる────はずだった。
しかし蓋を開けてみれば確実にOKするはずだった自分への告白は普通のものではなく。
「なんなん、だよ。私のお尻が好き? お尻以外は好きじゃないってか!? てか聞いたことねえんだよそんな告白よぉ!!」
「ちょ、葵。ま〜た口悪くなってるよ? も〜、普通にしてたら可愛いんだから言葉遣い気をつけなよぉ」
「う゛〜。夜瑠ぅ!!」
「はいはいはい。ど〜ど〜」
ちなみに葵の側で慰めの言葉をかけている彼女の名は中月夜瑠。
金とピンクのメッシュをした派手な髪を靡かせる、所謂″ギャル″と呼ばれる存在。しかしその心根は見た目の派手さからは想像できないほどの優しさを兼ね備えており、葵とは無二の親友である。関係性で言えば晴翔と大和のものにかなり近い。
「まあよかったじゃん? どこが好きかは置いといてさ。晴翔が葵を好きってところに変わりはないんだよ?」
「そ、それは……そう、だけど」
「にしても、お尻かぁ。おっぱいじゃないんだ。葵、女の私から見てもかなり良い物が付いてるのに」
「は、はぁっ!? アンタそんなこと思ってたの!? どうりでいつも揉んでくると……っ!」
「あはは〜、私が育てました〜♪」
「育てられた覚えなんか無い!!!」
全く、とそっぽを向いて不機嫌さを露わにする葵の綺麗な青髪を眺めながら、夜瑠はニヤニヤと小悪魔のような笑みを浮かべる。
「ねえ、葵。ちょっとその場で立って」
「はぁ? 嫌だよ面倒臭い」
「い〜からい〜から。確認したいことがあるのっ」
「……はぁ。もお、なんだよ」
ため息を吐いて嫌々という雰囲気を出しながらも、言われた通り葵はゆっくりと立ち上がる。
夜瑠から見れば自分に背を向けている状態。そこで葵に感づかれないようゆっくりとしゃがむとスカートの下から手を伸ばして。
────お尻に、手を添えた。
「ひにゃぁああっ!?」
「ほほうほほう。これが幼なじみを悩殺したお尻かぁ。いやはや、柔らかい中にもしっかりとハリがある。その上若干丸っこくて形まで良質……」
「ちょ、はぁっ!? ざっけんな!! どこ触ってんだ!!」
「え〜? いやぁ、お尻フェチの男子がこよなく愛するお尻とはどんなものなのかと気になりまして〜」
「殺すっ……ぶっ殺す!!」
「あひゃあ〜、痛いよお。ほっぺた千切れるぅ〜」
女子離れしておりもはやそこら辺の男子よりも強い力を持った葵の全力頬引っ張りが、夜瑠を襲う。
親友同士のじゃれ合いとは思えない頬の伸ばされ方をする夜瑠だが、何故かその悲鳴には鬼気迫る危機感というやつが無い。確実に痛みを与えているはずの相手からにまにまとした笑顔が消えない不気味さに、葵は思わず鳥肌で身体を震わせた。
「こんのッ! ナメやがってぇ!!」
「あは〜は〜、いたぁ〜い〜」
当人にとっては違っても、側から見れば微笑ましい光景であった。
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