視えざる痛み―phantom paine―

ジェード:

「なあ隊長」

オルガ:

「ン?なんだジェード」

ジェード:

「なんでこの部隊はファントムペインなんだ?」


基地の一角の部隊の為に用意された施設の中のリラクゼーションルーム。

特殊部隊『ファントムペイン』の隊長オルガ・ヴァイスに隊員であるジェード・ストラスが不意に部隊名の由来を聞くべく話を振った。


“ファントムペイン”


『幻肢痛』の名を冠するこの部隊は秘匿性の高い任務を遂行することを目的として

設立された。

有り体に言えば公表することも出来ない非正規の任務を行う汚れ役だ。

単純なカウンターテロから言葉にするのもはばかれる様な重要性は高いが決して世に出すことも叶わない損な役割が多い部隊だ。

そんな部隊に幻肢痛という名を付けた意味が知りたくジェードはその疑問を名付け親である上司に向けた。


オルガ:

「――――ファントムペインの意味は知ってるな」

ジェード:

「『幻肢痛』って意味だろ」

オルガ:

「そうだ。元々は医療用語で事故などで欠損した部位が痛むことがあるがそれは無くした身体の部位が“まだ存在している”ことを教えているのさ。それが転じて“視えざる痛み”なのさ」

ジェード:

「視えざる痛み・・・・・・」

オルガ:

「テロリストや無作為に争う奴らは無関係な人間を巻き込むのは痛みと恐ろしさを思い知らせるのが目的だ。だが、奴らの大半はそんな痛みや恐ろしさを相手に一方的に押し付けてテメエは傷つくことをせずに混乱と不安をバラ撒く。ファントムペインの目的はそんな連中に“連中が眼中にない巻き込まれた人間の痛み”を思い知らせる為の存在なのさ」

ジェード:

「そうだったのか―――――」


静寂が場を支配する。

しばらく沈黙が続いた後、オルガはおもむろにジェードにこんなことを口にする。


オルガ:

「――――元々ファントムペインはオレ個人を指すコードネームだったのさ」

ジェード:

「そうなのか」


ジェードの言葉にああ、と応えるオルガ。


オルガ:

「敵対象に不可視で“視えざる痛み”を与える狙撃手。それが俺の在り方だった。それが紆余曲折を経ていち部隊を率いることになったのは何の因果かねぇ」


苦笑いをするオルガではあったその表情は複雑な色合いを秘めており、彼自身が

そう呼ばれ、部隊への変遷に至った経緯を表している。

それに対してジェードもやや複雑な感情を表情に浮かべていた。


ジェード:

「アンタは独りでやりたかったのか?」

オルガ:

「――――どうしてそう思った?」

ジェード:

「元々ファントムペインがアンタのコードネームならここまでの組織になったのはアンタの本意じゃないんだろ?アンタは一人でそれを背負い込んで痛みを教えようとしている。ならオレ達がいればアンタの仕事の―――」


そう言おうとした矢先、ジェードの言葉を遮る様に彼の額にオルガはデコピンを

かます。


ジェード:

「――――ッテェ・・・・・!!何するんだよ隊長!!」

オルガ:

「ハッ――――バーカ、なにシケた面でツマラネェこと言いやがる」

ジェード:

「オレはただ―――ッ!」


ジェードの反論をオルガは言葉で遮る。


オルガ:

「おまえらはオレの部下だろ。大切な部下を蔑ろにする上司がどこにいる」

ジェード:

「――――ッ!!!!?」

オルガ:

「確かにオレは昔は独りでこんな仕事をしてたさ。キレイ事を言いながらも口外できないキタネェ事も随分した。だがな、“それがどうした”だで済ませてきたんだよ」

ジェード:

「隊長―――」

オルガ:

「ジェード。オレはな、今の“ここ”が大切なんだよ。過去がなんだろうが関係ねえ、オレが今いるのはおまえたちと共にいるファントムペインなんだよ」

ジェード:

「――――――」


黙ったジェードにオルガはニイッと口を歪めながらこう言った。


オルガ:

「もし、オレが死んだらおまえかおまえらの誰かがファントムペインを引き継げばいいのさ――――」

ジェード:

「そんな縁起でもないことを―――」


言うもんじゃない、と言おうとしたがジェードは黙った。

こんな任務をしているのだ。

死は常に隣り合わせにあるのは事実。

何が起きるのかわからないものである。


?????:

「あら、オオカミくんが継ぎたくないのならワタシが継ぐのもありかもね~」


ふと後ろがそんなことを言う1人の女性隊員が近づきながら2人の会話に入って

くる。

少し幼さを残す人形を思わせる様な風貌の妖艶な雰囲気を醸し出す女性不敵な笑みを浮かべていた。


ジェード:

「マリーゼ。おまえに継がせるなんぞまっぴらだぜ!」

マリーゼ:

「ああん、ツレないわねぇオオカミくんは。そういうつっけんどんな所もキミの良い所だと思うけどね~」

ジェード:

「うるせぇよ!!」

オルガ:

「ハッハッハ、おまえたちがその様子ならオレも安心して仕事に専念できる訳よ」


2人のやり取りに高笑いをしながら喜ぶオルガ。

後々にファントムペインはオルガを始め、隊員のほとんどが死亡し、全滅することになったが生き残ったジェードとマリーゼは後にオルガ達の遺志を継ぎ、ファントムペインの概念は形を変えてあり続けることになるがそれはまた別の物語での話である。


~fin~

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アンノウン・フラグメンツ 貴宮アージェ @takamiya_aaje

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