『彼』が『望むもの』

『彼』は考えた―――

自分が作られた意味を自分が『意思』を持っているのかを―――

蒼き躯体(からだ)―――その躯体の至る所に機関砲などの火器を備え、

額には角ともとれる突起物から伝説とされる種族『鬼』を連想させる機械の巨人。

『彼』―――『蒼き鋼の鬼神』が作られてから数年もの刻(とき)が経った。

『戦闘鬼神(せんとうきじん)』―――それが作り出された自分たちの総称。

その名のとおり、戦う為に作られ主(あるじ)の命に従がって戦う存在(モノ)―――

しかし『彼』はある疑問を抱いていた。

主に従い、主の為に戦うことそれに対して不満はなかった―――

だが、それならなぜ自分には『意思』がある?

多くの同胞(どうほう)たちは明確な『意思』や『感情』を持たず、ただ主の命に

従うのに対し自分を含めた少数の同胞にはなぜ『意思』があるのか。

『彼』は稼働してからずっとそのことを考えていた。

どうして自分に『意思』があり『感情』を与えられたのか―――

同胞であり対極を成す『紅き鬼神』にそのことを聞いてみるも、


「俺に聞いたところで解かるはずもあるまい・・・。余計なことを考えている暇が

あるのなら次の戦(いくさ)に備えろ。」


そう言って相手にしてくれなかった。

他の『意思』を持った同胞たちにも聞いてみたが答えは皆同じであった。

どうして『意思』を持たされたのか。その意図は一体何なのか―――

『彼』はずっと考え続けた。だが何度考えても『答え』は出なかった。


そんなある日―――


「どうして『意思』と『感情』を与えたのかって?」


『彼』を初めとした戦闘鬼神を作った創造主の1人である女性科学者にどうして自分に『意思』や『感情』を与えたのか、どうしてそうしたのか―――

今まで考え思っていた疑問を彼女に『彼』は全てぶつけた。

『彼』の疑問に女性はしばらく考えてから『彼』に顔を向けてこう言った。


「・・・逆に質問するけど、あなたは『意思』や『感情』は邪魔だと思うの?」


その問いに『彼』は複雑な表情(かお)を浮かべた―――

確かに邪魔だと思ったことは何度かあった。

戦闘ではそれで攻撃を躊躇ったこともあり、同胞が破壊された時は動揺したことも

あった。

場合によっては窮地に陥ったことも多々あった。

しかし逆に『感情』や『意思』があったからこそ他の同胞たちと会話ができ、創造主たちに対して意見をすることもできた。

邪魔になったこともあったが決して不要とも思えなかった。

だがそれでも自分たちは兵器であり戦う為の道具にしか過ぎないはず―――

ならば何故そういう風にしたのか―――

考えれば考えるほど『答え』は見つからなかった―――


「それじゃあ聞くけど・・・あなたは『感情』や『意思』がなかったらここまで生き残れたのかしら?」


女性が言ったその言葉に『彼』は答えられなかった。

たしかに『感情』や『意思』を持たなかった多くの同胞たちは破損や大破放棄された者もいる。

もし自分も彼らと同じく『意思』や『感情』を持たなかったら、彼らと同じ運命に

辿ったであろう―――


「“今”あなたはちゃんとした“マスター”がいないからそういうことを思っているのだろうけど・・・それもまた『感情』や『意思』があるからこそそう思えるのよ。」


女性はそう言い聞かせるように『彼』に伝え、その後付け加えるように


「いつかあなたにも判るわ・・・本当のマスターと出会って私の言ったことが・・・」


そう言って女性は『彼』に笑顔を向けた後、次の持ち場へと向かった・・・

いつか判る―――本当の主と出会うことで―――


女性の言っていたことを胸に秘めて『彼』は再び戦場へと出る。

だがその戦闘の際に発生した次元歪曲現象に巻き込まれた『彼』は一時的にとは

いえ、全ての機能を停止しまう。


どことも知れぬ廃墟の一角に打ち捨てられているかに思われる様に横たわり、

その機能を停止している青い鋼の鬼神。

そんな状態でありながらも彼は女性科学者から言われた言葉を考えていた。


”いつかあなたにも判るわ、本当のマスターと出会って”


機能が停止しても思考までは停まらることはなく『彼』は彼女が言っていた言葉の

意味を知ろうとしていた。

例え自分がその答えに辿りつけなくても―――

―――それから幾年、次元が裂け幾多の世界が融合したとある世界の崩れ果てた廃墟で打ち捨てられているかの様な状態の無傷な『彼』が見つかりその世界で再起動する。

その後、自分が仕えるべき『本当の主』と言うべき少女と出会うことになるがそれはまた別の話―――

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