第10話 目の前にいるのはいったい誰?
「ん……」
「あっ……目、覚めた? 気を付けないと風邪引いちゃうぞ~」
イタズラっぽく静波くんの頬をツンツンしてやる。
「ごめん」と短く言って、彼はカバンの底から参考書を取り出した。
「勉強?」
「うん……眠気覚ましにね」
眠気覚ましに勉強……。あたしにはありえないな……ふふっ。
余計眠くなっちゃいそう。
「頑張れっ」
こう言うことしかできない。だって、今チラッと見たけど、教科書以上の難しい内容をやってるんだもん。
数学ねえ……。
あたしなんか中学の時から『因数分解なんて日常のいつ、どこで使うのっ? 買い物で使わないっしょ!? こんなの』ってあきらめて教科書放り投げてたからね。
現代文はまだマシなほうかな。毎日日本語使うし、だから何もしなくてもそこそこ出来るし。
だから数学はいつも欠点スレスレ。
そんな感じだから静波くんマジリスペクト。
「斑鳩さんは……数学って、どう?」
ノートの上でシャーペンを走らせながら聞いてくる。
「ごめん……嫌い、なほうかな。静波くんみたいになんて絶対無理。だいいち基礎が出来てないし」
すぐに否定した。まさか、あたしに数学を教えてくれようとしてくれてる?
ムリムリ。静波くんがやってるような高度な分野を教えられても、理解できなくて恥ずかしくなるだけだよ。数学ってものすごく積み重ねが大事そうだからね。基本が分かってなかったら全然ダメ、みたいな印象。
「数学ってさ……、なんか取っつきにくいんだよね~。だから一応勉強しなきゃ、とは思うんだけど、他の教科よりも後回しにしちゃってさ……」
「それでいいと思う」
「えっ!?」
てっきり『もっと頑張れば分かるようになるよ』とか言われると思ったけど。
「あたし、もっと賢くなんなきゃ、って……いつも思ってるよ?」
「ううん……。斑鳩さんは……十分賢いよ」
「どうして……そう言えるの?」
あたしのことをどうしてそこまで詳しく知っているかのように話せるのか、不思議だった。
「僕は、さっき話した小さい頃の地震のときね……倒れてくる電柱を計算で
「……」
「だから電線の引っ張り強度を考えて……まだ大丈夫だろうと思って、おじいちゃんからもらった大事なサッカーボールを取りに電柱の下に向かって――」
あたしの目の前にいるのは静波くん。なのに……話している内容があの地震のとき、あたしが必死で助けに行った修斗の状況とそっくり。
「ホントに馬鹿だったよ……。常陸が一緒に遊んでくれてなかったら俺は死んでた。お前は俺の命の恩人だったのに、そのあと結局俺は……」
修斗……!? 話している男の子の見た目は静波くんのままだけど、話し方が完全に小学生の時の修斗になってる……。
「修斗!? 修斗なんだねっ!?」
あたしの目の前で、制服を着た男子が頭を抱えて床にうずくまる。静波くんなのか、修斗なのか、もうどっちなのか分からない。
「大丈夫っ!?」
「常陸……、どうして俺があんなところで死ななきゃならなかったのか……未だに分からない……。でも……もういいんだ……」
「よくないよっ!! 病状の急変ってなに!? 前の日まで修斗走り回ってたのに……! いったい病院で何があったの!?」
「……医療ミス、だってさ……。天井からいっぱい電気が照らしてる部屋で、病院の先生が最後にそう言ってるのを聞いた。頭がクラクラして、身体も動かせなかったけど……なぜかそれだけは、はっきり聞こえた」
「そんな……! ミスって……。そのせいで修斗はあんなに簡単に死んじゃったってこと!?」
「そうみたいだ……な」
「ありえない! 許せないよ……そんなの! お父さんお母さんは医療ミスだって知ってるの!? あたし……そんなの初耳だよ!? 単純に病状の急変だ、って教えられてたから!」
「二人とも知らないはずだ。病院は隠したんだと思う」
「そんな……!」
お腹の中がマグマみたいに熱くなってきた。
許せない……! ミスをしただけじゃなくて、それを隠すなんて……!
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