第6話 男の子の手
顔が熱くて仕方ない。静波くんがペットボトルを両手で支えてくれて、あたしはそれを咥えて、ただ飲む。
たったそれだけのことなのに動悸がして、息苦しくなる。
もちろんいい意味での苦しさなんだけど。
あたしの飲むペースをよく見て、容器の傾け具合を調節してくれているのが手に取るようにわかった。
すっごく優しい。直接手なんか触れなくても、ペットボトル越しにもその優しさが伝わってくる。
「ごほんっ……」
しまった、あんまり静波くんのことばかり気にしてたら、むせちゃった。
「ごほごほ……」
彼は少し迷ったふうだった。でも、すぐに覚悟を決めたような目つきになって、あたしの背中をさすってくれた。
あたたかくて、あたしよりも大きくてしっかりした手。
男の子、ってこんななんだね。
お父さんには小さいころ、抱っこしてもらったり、おんぶしてもらったりした。
そのとき、がっしりした手のひらに浮かんだ血管を触ってみたり、指の太さを測ってみたりしたけど、それとはまた違う感覚、かな。
若い男の子の感じ、って言ったらあたしが年上のお姉さんみたいでヘンだけど、やっぱり違うものなんだって思った。
だいたい、お父さんの手だったらこんなに心臓バクバクしないもん。
「収まってきた?」
包んでくれるみたいに、彼はほんわかとした高めの声で呼びかけてくれた。
やっぱり安心できる。
不思議……。いままでほとんど話したこともなかったのに、あたし、こうして一緒に閉じ込められたのが静波くんでよかった、なんて思ってる。
閉じ込められる原因を作ったのは彼なんだけどね。
でも、『このまま時間が止まればいい』なんて女の子みたいな願い事をお祈りする静波くんに親近感を持てたのは本当だよ。
いい意味で男の子っぽくなくて、女の子寄り、というか……。
あたしたち女の子に近い存在の男の子、かな。
クラスの女子たちは、オラオラ系な上沼くんが最高……なんて言ってるけど、あたし的にはそれはちょっと違うんじゃないかな、って思ってた。
どうしてそう思うのかが、いま分かったかも。
ふと気になって見てみると、いつのまにか11時半を回っていた。
さっきからずっと圏外だけど、スマホで時刻だけは確認できる。
「チャイムが鳴っているはずなんだけど……全然音が聞こえてこないね」
静波くんも自分のガラケーを取り出して確認して言った。
「大丈夫? メッセージとか返せないままになってたりしない?」
気になって聞いてみた。
「メッセージ? ああ、メールのことかな?」
あたしにガラケーの画面を差し出してくる。
液晶に映っていたのは彼と、彼のお母さんのSMSでのやり取りの画面だった。
「LINEでやり取りしないの?」
あたしの問いかけに彼は顔を真っ赤にした。なんならさっきあたしに告白してくれた時よりも赤いかもしれない。
「……じ、実は……LINEって使ったことなくて……。僕の両親って……結構年とってて、ガラケー使ってるんだ。だから僕が持たされているのもコレなんだ。でも、周りはみんなスマホだからなんか恥ずかしいというか……。だから学校でもスマホもなんにも持ってないって、みんなに言い張ってたんだ」
「……でも、あたしには見せてくれるんだ?」
なんだかあたしだけ特別みたいで嬉しい。
「あ、う、うん……。そういえば、そうだね」
恥ずかしそうに頬をポッと染める静波くんがなんだか可愛くて……気づいたらあたしは彼の頭をなでなでしてしまっていた。
「わっ……!」
「はっ……! ごごご、ごめんっ!」
またまた顔を真っ赤にしてそっぽを向きあうあたしたち。
うわ~なんでこんなことしちゃったんだろう……? この年代の男の子って、こういう子ども扱いされるの、絶対イヤだと思う。怒っちゃってないかなあ……? すごい心配になってきた……。
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