第7話 過去のトラウマ

 ぐらぐらぐらっ……!


「えっ!? なに!?」


 一瞬何が起こったか分からなかったけど、地震みたいだ。数秒間、少し揺れて収まった。


「もーっ、なんでこういう良くないことだけ、この中でまで起こるのよ!?」


「……本当だね。でも、また揺れるかもしれない……。机の下に入ったほうがいいよ」


 静波くんが少し真剣な顔をして言う。そして、その手が少し震えていることにあたしは気づいた。


 あたしの視線に気づいたのか、彼は恥ずかしそうに、ぼそっと話しだした。


「小さいころ……、小学校の低学年のころかな。結構大きい地震があってね……近所の電柱がはずみで倒れてきちゃって……すごく危ない目に遭ったんだ」


「そういえば、あったねぇ……大きな地震」


「僕はそのとき道路で塀にボールを当てて遊んでいて、幼なじみの女の子が手を引いて助けてくれたんだ」


「そっか……。命の恩人ってやつだねっ」


「そうなんだ。だからお礼が言いたかったんだけど……。なんだか素直になれなくて……照れちゃって、上手く言えないまま……もう会えなくなってしまったんだ……」


 遠い目をして静波くんが話す。


「なるほどね」


 分かる、分かるよ。その年頃ってそんな感じだよねっ。


 ますます親近感を感じるよ。


「!?……どうしたの、斑鳩さん!?」


 ああっ、しまった……。静波くんが、なんかすごく自分に近い気がして……無意識にめっちゃ見つめてしまった……。


「な、なんでもないよっ……、そ、そうだ、そろそろお昼だよねっ? ごはんの時間だあーっ!!」


 勢いでごまかそうとするあたし。


「そういえば……。そうだね、おなかが空いてたら脱出のいいアイデアも浮かばないからね」


 笑顔で言う静波くんだけど、彼的には、あたしと一緒に閉じ込められてる今の状況のほうが嬉しいのかもしれない……。もちろん、ずっとこのままってわけにはいかないのかもしれないけど……。


 人の心って……複雑なんだな。真っ二つに分かれることもあるんだね。


 心の片方は閉じ込められた不安で苦しいのに、もう片方では閉じ込められて嬉しい感情でいっぱい。よく分かんないよ。


 神奈も、ああやってリーダー気取ってる裏では大変なこともあるのかな? 別に仕切ってくれなくていいんだけど?


 ご飯の時間だとは言ったものの、食べ物なんてお菓子くらいしか持っていない。


 と、静波くんがカバンから信じられない贈り物を取り出してくれた。


「カップ麺?」


「うん。万一に備えて用意したんだ」


 さっき話してくれた地震の思い出のせいかな、危機意識が強いんだね……。10年後、防災課とかに勤めてるかも……。


 なにからなにまで色々入ってそうなパンパンの彼のカバン。見た感じはちょっと……だけど、おかげであたしは何回も助けられている。


「ホント、助かるぅ~。ありがとね」


 おっとっと、無意識に肩を叩いてしまってた。静波くんは驚いたのか、何回もまばたきをした。


 いつのまにか、あたし一人で勝手に彼との距離を縮めていたようだ。


 あたしのことを『好き』だと言ってくれた静波くんだったけど、急な接近に少し引いてしまっているみたい。


 『人との距離感が極端だ』って、あたしはよくお母さんから言われていた。


 遠ざけたい人はおかしいくらい自分のエリアに入りこませないくせに、自分の気に入った人には自分からとことん近づいていく。


 だからかな、『もっとフラットに人と関わったら?』とも言われる。


「静波くんはさ~、あたしのことどう思う?」


 はっ……! しまった。聞き方が悪かったみたいだ。静波くんが『もう一度、僕に好きって言わせたいの!?』って顔をしてる。


「ああ、えーと、違うの。あたしの性格っていうか、あたしが静波くんにはどんな感じに映ってるのかな、って思って」


 慌てて言い直した。


 マグボトルからカップ麺にお湯を注ぐ手を止め、わざわざ真剣に考え始める静波くん。


「あー、い、今は……いいかな。ごめん、変なタイミングで変なこと聞いちゃって……」


 まだまだ人との距離感を勉強中のあたしだった。














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