19
「――まあ、二人ともそっくりだからね。よく知らない人が間違えちゃうのも、しょうがないよ」
玲奈と由奈は、茜の傍に引っ付いていた。
「みんな、私たちの顔しか見てない」
「上っ面だけで、私たちを決めつけて」
「ほんとにね。二人とも、こーんなに違うのにね」
二人の頬に手を添えて、茜が笑う。
「別に、もういいよ。お母さんはわかってくれるし」
「遥ねえも、バカだけど間違えないし」
「こーら。お姉ちゃんの悪口はやめなさい」
「もう……家族がいれば、私はそれでいい」
「それ以外なんて、もういらない」
茜が、ほんの少しだけ悲しそうに眉を下げる。
「そっか……でも、もったいないよ。世界にはまだ楽しいこととか、二人が知らないことがいっぱいあるんだから。二人ともまだ十歳なんだし、諦るにはまだちょっと早すぎると思う」
「……でも」
「……無理だもん」
泣きそうになる双子を、茜が優しく抱きしめる。
「世界は広いんだよ。いろんな人がいる。二人のことをちゃんと見てくれる人が、きっとどこかにいる――そうだ! 私が補習受け持ってる子にね、すっごい眼が良い子がいるの。もうなんでそんなことまで気付いちゃうのってくらい人のことよく見てて、気遣いとかすごくて。もしかしたら仁君なら二人のことも一目で見分けちゃうかも――」
双子はうんざりしたように顔を顰めた。
最近の茜はいつもこうだ。仁とかいう生徒がよほど可愛いらしく、何かにつけて話題に出す。
おかげで会ったこともないのに、二人のなかでは仁のイメージが出来上がっていた。
茜をたぶらかす年上趣味のヤンキー崩れ。これだ。
会ったこともない相手を、どうやって始末してやろうか。双子は本気で思案していた。
夜。二人は布団のなかで互いを見つめていた。
自分と同じ顔。けど確かに違う人間。
「私たちを見分けられる人が、家族以外に」
「いるわけないよ、そんな人」
ちゃんと、玲奈には玲奈の好きなものがあって。由奈には由奈の嫌いなものがあって。
それだけのことなのに。玲奈は玲奈で、由奈は由奈なのに。
顔がいっしょというだけで、誰も彼もが二人を「同じ」だと思うのだ。
違う。玲奈は由奈のことが好きで、由奈は玲奈のことが好きだから。だからいっしょにいるだけで、「同じ」なわけじゃない。
当たり前だ。玲奈と由奈は違うから、だから自分と違う『玲奈/由奈』が好きなのに。
「……誰も気付いてくれないのかな?」
「このまま、私は誰にも見てもらえないまま……」
家族は違う。ちゃんと玲奈を見てくれる。由奈を見てくれる。
茜は優しい声で名前を呼んで、ちゃんと抱きしめてくれる。
遥はドジで鈍くさいけど、あれで人一倍周りのことをよく見てる。
生まれたばかりのひよりですら、感覚で二人のことをわかっているんだろう。
だから双子は家族が大好きで、家族以外のすべてが嫌い。
この小さなアパートの一室だけが、双子にとっての世界の全て。
ああ、でも……
「ほんとは、もっと外に……」
「外の世界に……どこかに、いないかな?」
自分たちを、見つけてくれる誰か。
そして叶うなら。
(由奈じゃなくて、私だけを……)
(玲奈よりも、私のほうを……)
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