17

 双子の口上をぶった切って放たれた、迷いのない一言。

 あまりの断言っぷりに面食らった双子の動きが、一瞬だけ固まる。けれど、次の瞬間には。二人とも同時に意地の悪い笑みを浮かべた。

(今のは偶然当たっただけ。わかってるよね、由奈?)

(うん、玲奈。当てずっぽに決まってる。「必勝法」で黙らせよう)

 最初の仁の答えは完全に的中していた。何の迷いもなく、双子のそれぞれを指さし、それぞれの名前を言い当てた。それだけでも驚きだったが、ここまでならまだ二分の一の偶然の可能性もある。

 けど、双子はこのゲームで負けたことは過去に一度もなかった。なぜなら、このゲームの正解は、玲奈と由奈しか知らないから。

 二人は見た目は同じだが、性格は違う。好きなものも、趣味だって別だ。けれど、相手のことは自分自身と同じくらいに理解している。それこそ、思考の全てをトレースして、完全に相手になりきることも可能なほどに。

 だから。仮に賭けの相手が見事正解を引き当てたとしても。その場を不正解と言い張って、片割れの演技をすれば、それでもうバレない。相手は自分が賭けに勝ったことにも気付かずに、入れ替わったままの「由奈」と「玲奈」にも気付かない。それで終わりだ。二分の一の負けすらもひっくり返り、勝利は双子のものになる。

 ゆえに、必勝。このゲームで、高崎の双子に敗北はない。

 トリックも以って勝利を確実とするために、双子はとどめの一言を放つ。

「「ざんねん、不正解で——」」

「外れてねえよ」

 敗北を突きつけようとしたその言葉は、またしても一言で切り捨てられる。

 あまりにも迷いがない。正解を確信した宣言。それを放った仁は、呆れたように溜息を吐いていた。

「おまえらさ、その歳でイカサマは流石に俺でもどうかと思うぞ?」

「……イカサマ? 何のことかな、私たちは――」

「玲奈。おまえ、ネイルアートとか興味あるだろ?」

 これまで、表情も反応も全く同じだった二人。しかしここで初めて、片方だけが――玲奈だけが劇的に反応した。

 驚愕に目を見開き、はっきりと表情を変える玲奈。その傍らの由奈は、ボロを出してしまった片割れを心配そうに見つめる。

 その反応こそが、言葉よりも雄弁に、仁の「正解」を証明していた。

「そうだったの、玲奈ちゃん?」

 そしてもう一人。娘の初めて聞く趣味に、茜は驚いた様子で玲奈を見つめていた。

「いやっ、その……私は別にそんな――」

 焦って目を逸らしながら、しどろもどろ否定する玲奈。もう言い繕うことも不可能だった。

 取り乱す相方を横目に、由奈は自分たちの敗北を悟って溜息を吐いた。

 そんな様子を愉快そうに眺めながら、仁はタネ明かしを始めていく。

「たぶんまだ実際にやったことはないんだろうけど、大方前に動画とか見て「いいな」って思ったんだろ? それで爪の形とかに拘るようになった。由奈の爪の手入れが雑ってわけじゃないけど、あれは単に邪魔にならないようにカットしてるだけの爪だった。玲奈の爪のほうが形もいいし、見た感じ表面も滑らかだったんだよ。磨いたりとか、細かく手入れしてるんだろ?」

 言われて、双子はそれぞれの爪を見比べる。二人分の手を並べてみて、はっとしたように表情を変えた。仁の言う通り、二人の爪は微妙に違っていた。

 双子の自分たちですら、意識していなかったから気付かなかった。そんな僅かな差を仁は初見で看破したのだ。

 呆然とする双子を余所に、仁のタネ明かしは続いていく。

「それから、由奈はなにか音楽系の趣味があるだろ?」

「――っ⁉」

「お前たちの、交互に喋る独特の癖。あれやけに綺麗に響くけど、ただ同時に声を出すだけじゃああはならない。綺麗に和音になるように調整されてる。おまえたちの声質は完全にいっしょだから、どちらかが音を合わせてるんだろうと思った。それで注意深く聞いたら、由奈のほうが発声が綺麗だったんだよ。そうやって髪を下した後に聞いてみても、由奈の声のほうが安定してた。普段の声量自体は玲奈のほうが上だから、すこしややこしかったけどな」

「はっ⁉ そんなことしてたの、由奈っ⁉」

「……いや、私は別にそんな……」

 たったいま違いを指摘された二人だが、焦った時の反応は同じだった。

 まったく同じセリフを口にする二人がおかしくて、仁は思わず噴き出した。

 愉快そうに腹を抱えて笑う仁を、双子は恨めしそうに睨みつける。 

 そんなのどこ吹く風と、仁はニヤニヤしながらその視線を受け止めていた。

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