15

「わぁー、できたの仁君?」

「はい。そんな凝ったもんじゃないですけど」

「ううん。すごく美味しそうだよ。ねっ、ひより?」

「うん!」

 食卓で待っていた茜と、その膝の上でくつろいでいたひよりは、運ばれてくる料理に目を輝かせる。それを見て、仁と遥も安心したように一息ついた。

 そうして始まるのは、和やかな夕飯の食卓――のはず、なのだが。 

「じー」

「じー」

 若干二名、和やかとは程遠い剣呑な雰囲気を放出する者がいた。

「由奈ちゃん、玲奈ちゃん、ご飯だよー? そんなとこで見てないで、こっちにおいでー」

「そうですよ、二人とも! せっかく一之瀬さんが作ってくださったのですから」

「遥も頑張っただろ? なっ、先生?」

「うんっ! 遥ちゃんは本当にお料理が上手なんだよー」

「お母さん……」

 照れて顔を赤くする遥と、そんな長女を見て和やかに笑い合う茜と仁。傍から見ている分には、今日初めて来た部外者とは思えないほどに、仁は高崎家に馴染んで見えた。

 ただ、それを面白く思わない者もいるのだ。

「遥姉。思いっきり絆されてるわね」

「しかたないよ、玲奈。遥姉はお人よしだもの」

「やっぱり私たちがしっかりしないといけないわね、由奈」

「うん。玲奈。私たちだけは気を許しちゃいけない」

 薄暗い隣室の襖の奥から、顔の半分だけを出して仁を睨みつける双子の目は、据わっていた。

 唾でも吐かんばかりに全力で「嫌な顔」をしている玲奈は、やがて低い声で呟く。

「由奈、アレやるわよ」

「うん、玲奈。化けの皮を剥いでやろう」

 そう言って、双子は襖の奥に消えていった。

「またですか、あの二人は……」

「あはは……」

「? 何かあるんすか?」

 呆れたように溜息をつく遥と、乾いた笑いの茜。ハンバーグに夢中のひより。何が何だかわかっていない仁は、最後のサラダを持って来て食卓に並べていた。

 そうして夕飯の準備が終わった丁度その時、豪快に音を立てて襖が開かれた。スパーン、と。軽快に襖を払って現れたのは、案の定件の双子。ただし、さっきまでとは少しだけ違っていた。

「「どっちが本物の玲奈ちゃんでしょーか?」」

 由奈と玲奈。二人の顔はまるっきり同じだ。だから普段、二人は髪型を左右対称にすることで、他の人に区別してもらえるように工夫している。

 逆に言えばそれは、素の状態の二人を見分けることは困難を極めるということを意味する。

 そして今、二人は髪を下していた。鏡写しのような、まるっきり同じ人相が二つ。彼女たちは、由奈のような無表情のままで、玲奈のような挑発的な調子で語り始める。

「部外者といっしょに呑気にご飯なんて無理。夕飯が美味しくなくなるわ」

「だから賭けをしようよ。わたしたち二人のうち、どっちが本物の玲奈なのか」

「正解したらあなたを認める。いっしょにご飯でもなんでも食べてあげる」

「でも不正解だったら。さっさと荷物まとめて帰ってよ」

「確率は二分の一」

「フェアなゲームでしょ?」

「「さあ。私たちと遊ぼうよ、お兄さん?」」

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