12

(……一通りのものはあるか。あんまり使い過ぎるのもよくないし、子どもでも食べやすいものを……ハンバーグでいっか)

 さくっと何を作るか決めた後は、冷凍庫から挽肉を取り出し、レンジに放り込んで「解凍」を押す。そのままパパっと米を洗って炊飯機のスイッチを入れ、流れでフライパンをコンロの上に置き、玉ねぎをみじん切りにしていく。

 先々の工程を想定した淀みない動線に、慣れた手つき。仁は、別に料理が好きというわけでもないが、訳あって家事にはそれなりの覚えがあった。

 玉ねぎを火にかけて炒め始めたあたりで、丁度後ろから声がかかった。

「あっ、一之瀬さん! すいません、お客さんに料理なんかさせちゃって」

 遥だ。慌てた様子で駆け寄ってきた遥の向こう側――僅かに開いた襖からのぞく隣室には、力無くノビている双子の姿があった。

 見なかったことにしよう。仁はすぐさま決断し、何でもないように笑顔を作る。

「先生の代わりだからな。こっちこそ、勝手に台所使ってすまない」

「いえそんな! 本当なら、私がやるべきだったのに……」

「じゃあせっかくだし、ハンバーグのタネつくるの手伝ってくれないか? レンジの中に挽肉あるから」

「っ! はいっ、任せてください!」

 双子相手に怒っていたかと思えば、次は自分の失態にしょんぼりし、今度はぱっと顔を明るくする。とにかく、コロコロとよく表情を変える子だった。

 レンジの中から挽肉を、冷蔵庫から卵他の材料を取り出した茜は、ボウルに材料を放り込んで混ぜていく。動きに迷いもなく、明らかに慣れている。長女として、茜のいないときの家事を代わりに担っていたことが伺える。

「玉ねぎ、入れるぞ」

「はいっ!」

 火を止め、フライパンの中の玉ねぎをボウルに移す。遥がもう一度手早く材料をかき混ぜ、タネを作っている間に、仁は付け合わせのスープを作り始める。

「できましたっ!」

「ん、じゃあ焼くか」 

 遥の手元を見れば、形の整ったハンバーグのタネが六人分、きっちり仕上がっていた。一つはやけに小さい。ひより用だろう。

 何気ないことではあるが、きっちり仁の分も用意されていることが少し嬉しかった。

 フライパンの上に六個のタネを並べ、焼き始める。同時に、横のコンロに置いたスープ鍋に野菜と水、コンソメなんかを放り込んで火にかける。ここまでくれば、後は出来上がりを待つだけだ。

「火、見といてくれるか」

「わかりました」

 火の番を遥に任せ、仁は付け合わせのサラダ用の野菜をちぎり始めた。もうこれといって注意することもないため、二人ともどこか手持ち無沙汰になってきたところだ。遥は無言で鍋とフライパンを眺め、仁は無心で野菜をちぎる。

 さすがに沈黙が耳に痛くなり、そろそろ何か話したほうがいいかな、と思い始めたあたりで、ぽつりと遥が呟いた。

「あの、一之瀬さん。ひとつ、訊いてもいいでしょうか?」

「うん? ああ、いいぞ」

 唐突だったうえに、やけに小声だったものだから、危うく聞き取れないところだった。真面目腐った顔でこちらの様子を伺う遥に、仁は改まって何の用だろうと心の中で首を傾げる。

 とはいえ。年上の、さして親交もない男。気負うなというほうが無理であり、ならせめて怖がらせないように、ということで仁はできる限り優しく微笑んで応える。

 それが功を奏したのか、遥は一瞬ほっとした様子を浮かべると、やがて意を決したように口を開いた。

「あの――――一之瀬さんとお母さんは、お付き合いされているんでしょうかっ⁉」

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