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そんな二人の横で、遥は遥で双子の態度にご立腹の様子だった。
「二人とも、お客様に対してなんですかその態度は!」
「うるっさいわね。遥姉は一々細かすぎなのよ。ねえ、由奈?」
「うん、玲奈。遥姉はいつも小言が多い」
「そんなんじゃ将来老けるよ」
「すでに姑の風格がある」
「「やーい小言おばさーん」」
「あ~~~~~~~~~もお~~~~~っ!」
激昂する遥。面白くなったとばかりに目を輝かせる玲奈。変わらぬ無表情な由奈。
三者三様の表情を浮かべた姉妹たち。逃亡を図った双子を遥が追いかけ、三人は隣の寝室へと駆けこんでいった。
ドタバタと騒ぐ音が隣の部屋から響いてくる中で、仁と茜は顔を見合わせて苦笑する。
「ごめんね、騒がしくて」
「いや、いいっすよ。なんか俺、こういうの好きなんで……」
上の姉たちが暴れ散らすのをどこ吹く風と、ひよりはちゃぶ台の上に塗り絵らしきものを広げ始める。一人遊びが上手らしい。
「家族、か……」
ぽつり、と。仁が零した。誰かに聞かせるような声ではなく。本当にふと漏れてしまったような独り言だった。
ただ一人、傍らにいた茜にだけは、その呟きが聞こえていた。
「その……お父さんとは、どう?」
「……別に、それなりですよ。一応、最近はちゃんと家には帰ってますし」
遠慮がちな茜の問いに、仁は僅かに固い表情で答える。
「正直、まだどう話していいかわかんないっていうか。俺も今さら合わせる顔がねえし。だからまあ……ちょっとずつ歩み寄っていけたらって、思ってます」
「うん、いいと思うよ。焦らずに、仁君のペースで。お父さんも、きっと待っててくれるから」
「よく断言できますね?」
「わかるよ。親っていうのは、そういうものだから」
遊ぶひよりを愛おしそうに見つめる茜。隣の部屋ではまだドタバタする音が鳴り響き、時折遥の怒号と双子のものと思われる悲鳴が聞こえてくる。
少し、思い出した。仁も昔、丁度こんな感じの安アパートで家族と暮らしていたのだ。
父も母も仕事で忙しくて、中々話す機会もなかった。寂しくなかったといえば、嘘になる。
けれど、たまにみんなで食卓を囲んだ時間は、とても楽しかった。ほんの三十分くらいだろうか。月のうち何回そんな機会があったかも定かではない。
それでも、その三十分こそが、仁が初めて確かに感じた「幸せ」だった。
「先生、ひよりの相手してあげてください」
「えっ? でも、ご飯の用意しないと」
「俺がやりますよ。今日は先生に休んでもらうために来たんすから」
「でも……」
やっぱり自分が、と言おうとした茜だったが、その言葉が口から出ることはなかった。
振り返った先の仁の顔が、見たこともないほどに優しくて――寂しそうだったから。
「お願いします。家族と、いっしょにいてやってください」
「……うん。わかった。ありがとうね」
「今日、晩飯何にする予定だったとか、あります?」
「うーん……仁君が得意な料理がいいな。冷蔵庫の中、勝手に使っちゃっていいから」
「りょーかいっす」
茜はひよりの隣に腰を下ろし、仁はおもむろに冷蔵庫を開けた。
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