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放課後のチャイムは、若い情熱にあふれる高校生たちにとって、自由を告げる福音だ。終礼が終わった瞬間、教室の中はいっせいに騒がしくなる。
帰り支度を始める者。友達の席に集まって駄弁り始めるもの。放課後の予定を考える者。
そんな中、チャイムが鳴るや否や手早く荷物をまとめて、足早に退出しようとした男子生徒を、別の男子が見とがめた。
「おーい、待てよ、仁! おまえもカラオケ行かね?」
明るい調子の呼びかけを無視することはせず。仁と呼ばれた男子生徒は、自分に向けて手を上げる友達のほうへと振り返った。
「わりい。俺、これから補修あんだわ。また今度な」
目を引くのは、軽快に跳ねまわる明るい金髪。ついで左耳に開けられたピアス。
どこぞのホストと間違われそうな、軽薄ながらも整った顔立ち。
学ランの前を全開にし、内にパーカーを重ねたスタイルも合わさって、とにかく派手で、とにかく目を引く――いかにも「チャラい」少年だった。
その印象に違わず、明るく軽い調子で笑いながら手を振って、少年――一之瀬仁(いちのせじん)は足早に教室を後にした。
「あいつ、あんな見た目の割りに真面目だよな」
「ばーか、ちげぇよ」
仁が去った後に残ったのは、二人の男子。
仁に声をかけたスポーツ刈りの快活そうな男子が丸宮樹(まるみやいつき)。その後ろの席で気だるそうにする男子が浅野裕斗(あさのゆうと)。共に仁と親しくする友達だった。
取り付く島もなく早々と出ていく仁を見送った裕斗は、その意外な勤勉さに驚いていた。
だが、その隣。樹は「仁がどうして急いでいるのか」、その本当の理由を知っていた。だからこそ、訳知り顔でニヤニヤしていた。
「おまえ、補修担当の先生誰だったか忘れたのか?」
「…………ああ、なるほど。そういう……」
仁が勤勉にも補修に通う理由。それに思い至った裕斗と樹は、二人でここにはいない友達の青き純情を思い、にやにやといやらしい笑みを浮かべていた。
「あいつ、ほんとに高崎先生のこと好きだよな」
自分の友達たちが自分の恋路をネタに面白がっているとは露知らず。仁は、沸き立つ心が足を進めるままに、補修室へと向かっていた。
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